夢を叶えた五人のサムライ成功小説【川端雄平編】17

この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。

雄平が住まいの自室でギターの練習をしていると、由里から連絡が入ってきた。


柴田が今度は救急車で病院に搬送されたようだ。
どうやら葉巻が切れたことによる突発性ストレスによる発作らしい。

葉巻を吸いたいようだが、どこに売っているのか思案にくれていると、どうやら携帯電話の通話越しに柴田の掠れた声が届く。


葉巻とチャッカマンを繰り返し繰り返し、呪文のように言っているのが分かる。
とにかく病院へ向かうことにした。

この日は大雪ではなく、ぱらつく程度の雪がふんわりと少量だけ舞っていた。


病室では柴田が布団に横になりながら、じっと視線の先に映る小窓だけを眺めていた。
病院へとたどり着いた頃、柴田は見事に息を吹き返していた。

『柴田さん、その様子だと大丈夫みたいですね』
『雄平くん、心配をかけてすまなかった。林が葉巻とチャッカマンを持ってきてくれた』
『俺もお世話になってるから手ぶらじゃこれないし、とりあえずこんなもので良かったらどうぞ』


柴田はほんの少し、笑って見せた。
そして雄平に握手を求めた。
握手を交わすふたり。

『お前の努力は間違っていない。正しい努力を積み重ねていた。ただ芽が出なかったのは才能がないからではない。目指す分野を変えること。お前にはギターの才能があった。枠や常識にとらわれていて、他の方向性に転換する発想へ意識が向かなかっただけだ』


雄平は温かい気持ちになった。
少しずつ少しずつ、心になんとも言えなかった感触が、なかなか払拭出来ずにいた蟠りが薄れていく。


思わず由里を抱き締めていた。
『雄平くん、心配するな。お前は疑り深い奴だな。私と由里ちゃんに恋愛感情や大人の関係などない』
『べつに疑っていたつもりはないよ』
『素敵な彼女さんじゃないか!会うたびお前のことで相談ばかりだった。しっかりしろよ』


片隅ではずっと林がことの成りゆきを眺めていた。


室内は四人の朗らかな声で包まれた。
柴田もまた三日間ほど安静にしていれば退院が出来るそうだ。

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