夢を叶えた五人のサムライ成功小説【高木京子編】1

この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。

高木京子は作家である高木啓太の妻であり、結婚して十年の月日が経過する。


幼少の頃から日記を欠かさず綴っている。
そんな京子は高校を卒業と同時に、住まい近郊に構えるフィットネスジムでレッスン生として通っていた。


現在の夫と出会い、引っ越してからも一年のブランクはあるものの新しい環境にも慣れ、再びフィットネスジムに通い始め三十年にもなるベテランだ。

夫である啓太と結婚するまでは旧姓・片瀬の苗字に対して気に入っていたのか、高木の姓を頑なに拒んでいた時期もあった。


いつしか京子は夫が作家であることから、本来の自由気ままな生き方を改めて、家庭優先とした生活環境に身を置き、啓太を支える役割を立派に務め果たしていた。

そんな京子に転機の出来事が訪れる。
執筆に励む啓太に温かい紅茶を差し入れるために、書斎のドアをノックしたことから始まった。


『あなた、入っていいかしら』
『ああ、京子か。構わないよ』


書斎に入り、両手に抱えていたお皿を小さなデスクの上に置いた。


紅茶の入ったカップを手に取って、啓太が睨めっこしている原稿用紙が散乱しているデスクの上の右端に置いた。

『あなた、少し休憩でもしたら?冷めないうちにどうぞ』
ニコッと微笑む京子を見て啓太は心の緊張がほぐれた。


啓太は連載三本を抱える売れっ子作家だった。
そんな啓太だが実は小説に携わってプロになるまで、15年の月日を要している。


陽の目を見るまで様々な苦汁を味わっていることもあり、底力や耐久性は一般のそれらを超越していた。

一口飲み干し、フーッと声を漏らす。
『京子、今回の原稿があがったら温泉にでも旅行に行くか』
京子は黙ったまま、こくりと顔を頷かせた。
その姿勢には夫への感謝が見て取れた。

思えば出会った頃の京子は破天荒で猪突猛進だった。
今の妻の姿を誰が想像できたたろうか。

『美味しかったよ、ありがとう』
『あなた、感謝してます』

深夜三時あたりだろうか・・・。
この日の執筆を終えた啓太はデスクから立ち上がり、軽くストレッチを始めた。


ストレッチは京子から教わったもので、必ず執筆前後には実施している。
啓太が完全にマスターするまで京子は口やかましかった。


いや、やかましいどころではなかった。
間違えようものなら蹴りやパンチが飛んできた。

京子はフィットネスでも格闘系を習っていた。
そのためであろう。


しかし、この程度はまだ序の口といってよかった。
ひどいときはシアタールームに連れて行かれ、正座をさせられ、ストレッチのビデオを視聴させられながら、延々と説教と指導が続いた。

しかも習得するまで許されず、京子はことフィットネスに関しては自他に一切の妥協を許さず、尚且つ、彼女自身の人格さえ豹変させてしまうほどだった。


昔はその気質が目立っていたが、いつからかおしとやかさが上回り、安心はしていた啓太ではあったが、どちらが本質なのだろうか、今でも時折、その一面を覗かせる。

ストレッチを終え、書斎の明かりを消して寝室へと歩を進めた。


一足先に眠っていた京子の隣にそっと潜り込み、眼を閉じてやがて啓太は眠りに就いた。
隣で眠る京子の鼾だけが、静寂な寝室にいつまでも響き渡った。


京子はとてもたくさんの魅力を兼ね備えていた女性だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?