一拍ずれて、誘惑
絶望的にリズム感がない。
どのくらい酷いかと言えば、GRAYの『誘惑』をカラオケで歌っても、歌い出しが必ず一拍ずれる。
そうすると、どこまでも歌詞と声はずれていく。切ないすれ違いだ。
「時に愛は二人を~becauseIlove you……」
まで辿り着けない。同じボックスの人たちが困惑して、変な空気になる。
SEKAI NO OWARIの『Habit』を歌った時のズレと無力感もなかなかだった。なんかもう、本当に世界の終わり、と言った感じだった(上手くないか)。
その代わり、何故かラップは引くくらいうまい。これまた家族でカラオケに行った時に、KAT-TUNの『Real face』のワイルドなラップをピッタリのリズムで叫んで、最も遺伝子の近い人たちを困らせた。
まだ純朴だった小5の妹が「お兄ちゃんは坊主の人(田中聖)と違う意味で怖い」と真顔で言っていたのを覚えている。
聞くところによると、幼少期の私はヤマハに通っていたらしい。誰より張り切り、誰より元気に、異常なテンションでワンテンポずれて踊っていたそうだ。
それを見た母は居た堪れなくなり、頃合いを見て退会させたらしい。なんとも切ないエピソードである。
最近はコロナ禍なので、『habit』もリリース当初に一度マイクを持ったきり。カラオケにも行けない日々だ。
住んでいるアパートの一室で『ポケカラ』というカラオケアプリを使い迷惑にならない小さな声量(のつもり)でボソボソと歌っている。
驚いたことに久しぶりに歌った『誘惑』の歌い出しがテンポがズレずに歌えるようになっていた。
しかし、音程は取れていない。今ではただの歌が下手なオジさん予備軍(自称青年)になってしまった。
バーモントカレーのように甘い採点機能でも90点いかない私の声は、今日も日本のどこかのアパートの一室で哀しく響くのだ。
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