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メゾン・マルジェラを傘下に持つOTBグループが展開するweb3ファッションプロジェクト

こんにちは、Decentierでリサーチャーをしている聖・マーくんです。

3月に入り、ファッション業界では2024ssコレクションが店舗に出揃う時期になってきました。まだ肌寒い日もありますが、すでに春物を買われた方も多いのではないでしょうか。

そんな中、フランスのラグジュアリーブランドであるメゾン・マルジェラが、ブランドを象徴するタビブーツにちなんだ新たなNFTコレクション「Meta TABI」を発表しました。

気になって調べると、メゾン・マルジェラを傘下に持つイタリアのファッションコングロマリッド、OTBグループが主体となってweb3に関連した様々なプロジェクトに取り組んでいることがわかりました。

以下では、その全体像についてまとめながら、ファッションブランドによるweb3プロジェクトの最前線ついて考えていきます。

なぜOTBグループはweb3に注目するのか?

ファッションコングロマリットと言えば、ルイ・ヴィトンやジバンシィ、フェンディなどのラグジュアリーブランドを保有する LVMHグループが有名ですが、OTBグループもメゾン・マルジェラを筆頭にディーゼルやジル・サンダー、マルニなど日本でも名の知れたブランドを保有しています。

OTBグループが2024年2月に発表した2023年度の総売上高は約19億ユーロ(約3000億円)で、その規模はLVMHグループのわずか2%程度、さらにはユニクロを要するファーストリテイリングより小さくなっています。一方で、昨年にはフランスのパリに本社ビルを購入するなど、各ブランドの店舗数も含めて事業を拡大しており、前年比では約10%増となっています(参照)。

そんなOTBグループがweb3に注目する背景には、Z世代を中心とする若者層の顧客増加があります。ディーゼルではZ世代が顧客全体の35%を占め、ジル・サンダーやマルニも価格帯の高いブランドですが、ユニクロとのコラボなどによって若者層を顧客として取り込んでいます。またメゾン・マルジェラも、韓国の大人気アイウェアブランドであるジェントルモンスター(※)とのコラボが話題になり、アジアを中心に若いファッショニスタからの人気を得ています。

※今月、日本初となる旗艦店が青山にオープンしました。

OTBグループはこれまでも独自のECプラットフォームMOONを立ち上げるなど、そのようなデジタルネイティブな世代の獲得に向けて動いてきました。さらにはメタバースの到来を見据えてVRや3D、AIといった新しい技術を活用したイノベーションへの投資を積極的におこなっており、web3とブロックチェーンもそのテーマの対象として注力していると考えられます。

OTBグループによるweb3関連の取り組み

ここからはOTBグループによるweb3関連の取り組みについて紹介します。同グループはweb3の技術を活用することで傘下ブランドの価値および顧客エンゲージメントの向上を目指しています。

メゾン・マルジェラ

Maison Margiela Numbers
2023年10月に「Maison Margiela Numbers」というNFT発行機能を応用した数字集めのNFTゲームをリリースしました。ユーザーは専用ページでウォレットを接続し、マルジェラファンに馴染みのある0から23までの24個のNFTを全てコレクションすることを目指します。詳細は後述しますが、最初の100人が全数字を集めた段階でゲームが終了するルールとなっており、限られた枠のロイヤリティパスを競って多くのファンやクリプト民がゲームに参加しました。将来的にはその100人だけがアクセスできる新たな特典などを提供する計画です。

Meta TABI
冒頭で紹介した通り、マルジェラの創業初期から続くアイテムであるタビブーツのNFTコレクションを発表しました。実物の靴が紐づいた15足限定のホワイト版タビブーツと、実物の財布が紐づいた1500足限定のブラック版タビブーツがあり、どちらもデジタルファッションプラットフォームのファブリカント上で招待客限定のプレセール(3月26日〜)とパブリックセール(3月27日〜)で販売されます。今後はこれらのアイテム所有者に向けて仮想空間やゲームと連動したバーチャル体験を提供し、そこで活用できる新たなデジタルコレクションへのアーリーアクセスも提供する計画です。

ディーゼル

THE PROTOTYPE NFT
2021年12月にディーゼルの最新スニーカーモデル「THE PROTOTYPE」の発表を記念して作られたNFTコレクション。制作はファブリカントが支援し、ブランドにゆかりのある著名人らに配布されたそうです。

D:VERSE NFTS
2022年3月にディーゼルの秋冬コレクションをモチーフにして作られたNFTコレクション。NFTマーケットプレイスのラリブルで販売されました。保有者限定のコミュニティパスとして機能し、ディスコードのプライベートチャンネルや新規コレクションおよびプロジェクト、限定商品などのアクセス権を提供しました。

METAMORPH
2023年9月に300個限定で作られたサウンドトラック付きのNFTコレクション。音楽NFTマーケットプレイスのパブリックプレッシャーで販売されました。保有者に対してはディーゼルのショーの入場権や、最新の時計アイテム「Vert」の購入権を提供しました。Vertの購入者はさらに専用のNFTが付与されるとのことです。

ブレイブ・バーチャル・エクスペリエンス

OTBグループのweb3関連プロジェクトを牽引するのが、2022年1月に設立されたグループ会社であるブレイブ・バーチャル・エクスペリエンス(BVX)です。BVXはメタバースにおける新規事業の創出を目標として活動がスタートしましたが、今ではweb3を含めてグループ全体のイノベーション推進の役割を担っています。上述したメゾン・マルジェラやディーゼルの取り組みもBVXによる戦略的および技術的なサポートによって実現しています。

AURAブロックチェーンコンソーシアム

OTBグループは LVMHグループが主導するラグジュアリーブランドのブロックチェーンコンソーシアム「AURA」に創設メンバーとして参加しています。AURAはコンセンシスが開発したEthereum基盤のプライベートチェーンであり、その技術を活用してブランド製品の真正性確保とサプライチェーンの透明性向上を図っています。具体的には製品ごとに固有の識別子を付与し、その情報をブロックチェーン上で管理することで偽造防止と製品追跡を強化します。

この取り組みはコンソーシアム内で既に実用化が進んでおり、OTBグループではメゾン・マルジェラとジル・サンダー、マルニの一部製品で採用されています。購入者は製品に付属するNFCタグをスマートフォンなどで読み取ることでAURAブロックチェーンに保存されたデジタル証明書を確認することができます。実際にその確認方法を説明しているYoutube動画がありましたのでぜひ見てください。2024の秋冬コレクションからは、これらのブランドの全ての製品が対象となる予定です。

OTBグループのweb3事例から得られる示唆

OTBグループはメタバースやNFTが盛り上がっていた2021年から試験的な取り組みを開始し、2022年にはweb3を推進する組織を立ち上げ、その後も新しいプロジェクトを次々に発表しています。個々の取り組みの変遷を見ると、同グループが反省を含めて業界全体のトレンドに沿って改善を重ねていることがわかります。

ディーゼルでは商品というコンテンツを単にNFT化して身近な関係者に配ってみるという簡単なものから始まりました。そこからNFT保有者限定のディスコードコミュニティの組成、画像ではなく音源でのNFT販売、さらにはリアルなモノや体験との結びつきまで、NFTブームの流れをなぞる形で徐々にステップアップしています。

これらの経験で得たノウハウを活かし、メゾン・マルジェラでは「Maison Margiela Numbers」でゲーミフィケーションを組み合わせたコミュニティ作りに挑戦しています。具体的には高い数字ほど獲得が困難でレアリティが高まる工夫や、それぞれが個々のユーザーに紐づくSBT(譲渡できず二次流通では得られないNFT)として発行される工夫がなされていました。これらの工夫によってユーザーは自ら時間をかけて数字を集めるしかなく、ロイヤリティの高いユーザーだけがゲームをクリアする設計になっていました。OpenSeaで確認できるコレクションの保有者数は約18,000アドレスで、単純な比較はできませんが、ディーゼルが展開したコレクションの約30倍となっています。

さらに「Meta TABI」では、これまでとは違い、ブランドファンの中でもよりコアな既存のタビブーツファンを対象に、NFTコレクションを通じてリアルな商品+αのデジタル体験を提供しようとしています。実際の靴や時計が紐づいているため、ファンにとっても通常の買い物をする感覚でコレクションを手にすることができます。また「Maison Margiela Numbers」の数字NFTを一つでも持っている人は招待客限定のプレセールに参加することができ、早速ゲーム参加者に向けた特典が提示されています。今後の新たなコレクションについても数字NFTの保有数に応じて特典が得られるとすると、約18,000のコミュニティの価値はますます高まっていくことが予想されます。

ここまでを読んでメゾン・マルジェラの数字NFTが欲しいと思った人もいるかもしれません。しかし、「Meta TABI」や新規コレクションのNFTは買えても、「0」から「23」までの24種類のNFTを今から買うことはできません。NFT発行機能を使った単純な数字集めのゲームが大成功だったと言うにはまだ早いですが、ロイヤリティパスとは数量限定で簡単に流通しないからこそ価値が生まれるということを改めて考えさせられます。

OTBグループも参画するAURAのシステム導入が進み、ブランドの製品情報がブロックチェーン上で管理されるようになるのは間違いないでしょう。加えて、同グループは製品販売とユーザーそれぞれに紐づいたNFTを組み合わせて顧客情報もブロックチェーン上で管理しようとしています。その上で、来たるべきメタバースの時代に備え、これから多くのデジタルコレクションをリリースする計画が伺えます。

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