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ホロライブ『清掃員事件』は何故炎上したのか ~印象から生じる批判論~

 バーチャルYouTuber事務所、ホロライブ所属の5期生『ほろふぁいぶ』のコラボ配信中の発言が取り沙汰され、炎上騒ぎになっている。これまでも数多くのトラブルが生じ、各界から批判の目が向けられる中での事件ということで、批判の声も一段と強い。

どんな発言があり、何が問題視されたのか

 彼女らが何をしでかしたかについては、配信のアーカイブを見てもらうと良いだろう。

 問題の発言がなされたのは、雪花ラミィ・獅白ぼたん・尾丸ポルカの3人がMinecraftをプレイしていた最中のことである。彼女らは先輩ライバーの湊あくあから建設関係の誘いを受けるという状況を、チャットの文面から入社面接風に茶化して遊んでいた。
「勤続20年の社員(17歳の宝鐘マリン)もいる」
というあくあのチャットに対して、3人は爆笑しながら
「その人はどのくらいの役職なのか」
と尋ねる。すると、返ってきたのは
「清掃員です」
という言葉。建設のために社員を募集しておきながら、建設業務の担当者のキャリアではなく、裏方の業務に20年間従事し続けてきた社員を勤続経験でアピールする。そういったコント的な『噛み合わなさ』に一同は爆笑するという状況だった。
 しかし、このやり取りに対して「これは職業差別ではないのか」という批判が向けられることとなった。前述の経緯に対する受け取り方がライバーと視聴者の間で異なっている点もそうだが、『清掃員という立場を軽んじる、馬鹿にするような発言』『『子供に顔向けできない』といった職業に対するマイナスイメージの押しつけ』が以降の会話で繰り広げられたことも、彼女らに対する批判の要因となっている。

 これまでもライバーの発言が「社会一般への配慮に欠けている」と指摘されたり、「差別的である」と問題視される事案はたびたび起きている。これについては、常識や社会通念への理解が欠けているという文脈で非難を浴びせる方もいるが、必ずしもそうとは限らないだろう。
 確かに、咄嗟の失言は物知らずという側面が強く出る。そのため謝罪においては『勉強不足』『理解不足』といった点を強調して非を詫びる形式を採ることが多い。
 しかし、今回の茶番劇のようなやり取りは、参加者個人の知性や良識に関係なく発せられるものだ。
「舞台の上の虚構や演技として盛り込んだものが、世間的にそうとは受け取られず反感に繋がった」
そのように捉えた方が適切であると思う。
 勿論、そうした受け取られ方を容易にされるような発言が相次いだことは失態であるし、しかるべき形での事情説明と騒動に対する謝罪は必要となるだろう。しかし、彼らの個別の落ち度として追及したところで、状況が改善されることはない。また教訓のないライバーから問題が再発するだけである。エンターテイメントとして見せて良いもの、見せるべきでないものの分別をライバー全員に浸透させなければ、根本的な解決には導けないだろう。

『配信者が清掃員を蔑視した』という感覚はどこから生じたのか

 今回の炎上騒動で問題とされた言動は、配信内の流れやニュアンスを取る限り『問題がある』としか言いようのないものである。しかしながら、湊あくあとのチャットのやり取り自体はコントとして成立している。

 建設会社の面接にやってきた現場志望の応募者が、人事担当者から会社のアピールを受ける。それに対して質問をすると、応募要件と噛み合わない頓珍漢な回答が返ってくる。『なんでや!』とツッコミを入れる応募者。

 この一連のやり取りをお笑い芸人が演じたとして、「これは差別だ!」と唐突に怒りをぶつける聴衆はどの程度現れるだろうか。彼らの表現にもよるだろうが、職業や業務に対する蔑視ではなくミスマッチ感を強調するものであったら、気づかず見過ごしてしまうのではないだろうか。
「清掃員です」
という回答に対して
「僕、現場監督の面接と聞いて受けに来たんですよ。掃除当番宛がわれるんですか!」
という困惑した反応を見せられたら、「そりゃツッコミ入れるよな」と同意する方は少なからずいるだろう。
 この文脈に沿って笑いを取ろうというやり取りが『差別的』と受け取られたのは、扱ったネタそのものにあるわけではない。前述のニュアンスを貫いていれば、炎上したとしても「恣意的な捉え方をした」と受け取る人の方が多かっただろう。視聴者からの明らかな反感を招いた真の要因は、そこに付与された彼女らの言動の軽々しさと、そこから想起される職業蔑視のイメージなのである。

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