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VTuberの健康について考える

 バーチャルYouTuberという文化が表に出てきてから既に長い年月が経ってきている。黎明期のハチャメチャかつ個性的な面々が人気を集める傾向はやや薄まってきたが、その分より広く、性別や年齢、国籍、本職の有無といった属性を問わない形で浸透してきているように思う。

 その一方で、これまでの元気や若さを前提にして通してきた部分が通用しなくなり、主に健康面での暗い話題や不安になる話題を目にし耳にする機会が増えている。
 にじさんじ所属のライバー『舞元啓介』が、健康上の理由から無期限で活動を休止し療養に専念することを発表したことは記憶にも新しい。
 また、同じにじさんじライバーの中には、病気が見つかり手術を受けた方や、結石などの症状で苦しみ、医療機関のお世話になった方も何人か存在する。鼻風邪やのどの不調といった軽いものを含めれば、ほぼ毎日の頻度で誰かしら影響が出ていると言ってもいい。
 他の事務所や個人活動のVTuberにおいても、こういった傾向は当然見られる。体調面や健康面についての報告に留まらず、体調不良を理由とした配信スケジュールの変更や企画の延期・中止が度々発生するようになっている。以前よりもこういった健康にかかわるトラブルは増えている印象だ。

 もちろん、病気や体調のすぐれない状況は必ずしも本人の落ち度によるものではなく、どれだけ健康に気を遣って生きていたとしても発生しうるものである。
 また、活動を始めるよりも前から、アレルギーや持病といった形で健康上の不安要素を抱えている場合も当然あるだろう。医師との相談の上で問題ない範囲に留めていても、何かのきっかけで配信に影響が及ぶことはあり得るし、その点は致し方ないことだと思う。
 一方で、配信者特有の作業環境や生活リズム、仕事柄生じる長距離移動など、VTuberの健康に少なからず影響している要素がいくつか存在する。そういった『職業病』を招きうるものについて、どうリスク評価していくかという点は、この先より重要になってくることだろう。

 今回は、VTuberが配信活動を行う中で直面しうる健康リスクについて、具体的に考えていく。同時に、視聴者側がそういったリスクや健康に関する告知に対してどう反応すべきかについても、自分なりの意見を表明しておこうと思う。
 あくまで外野の一見解ではあるが、健康的に長く活動を続けていくためのきっかけになれば幸いである。

VTuberの活動で生じる健康リスク

 まず最初に、VTuberが活動を行っていく中で生じる健康面へのリスクについて、大まかな分類をしてみよう。

 まず第一に、影響が表出するまでの期間で考えてみよう。
 一つ目は、『短期的な健康リスク』。すぐ変化が現れるものとして、耐久配信など特殊な活動にともなう身体的な変調や、スタジオ収録中の事故といったものが挙げられる。これらは配信中であればリスナー側も気づけるものであり、直接注意が促せる可能性のあるものである。
 二つ目は、『長期的な健康リスク』。こちらはたとえば慢性的な腰痛や睡眠不足、内蔵絡みの疾病、眼圧異常や緑内障といったものが挙げられるだろう。一日の大半を椅子の上で過ごしたり、仕事柄目に負担のかかる状況が長く続くなどして、無視できないレベルの健康問題が引き起こされた場合であり、『職業病』と言えるものである。

短期的な健康リスク

強い眠気、画面酔いなどの失調、喉枯れや声のかすれ、目の渇き、怪我など

長期的な健康リスク

腰痛、首などの痛み、視力低下など目の異常、指や手首の関節異常など

 これらのリスクは、VTuberに限らずほとんどの配信者や動画投稿者、もっと言えば他業種においても直面しうるものである。ただ、仕事柄パソコンの画面を睨んでのデスクワークが多くなる分、腰や脊椎、目といった部位への負荷は他業種に比べて強いものとなっていそうだ。

 次に、このリスクがどの程度仕事に影響するかという観点から分類してみよう。
 ここでは、重大な順に『活動を終了、あるいは休止せざるを得ない健康リスク』『短期間の療養が必要な健康リスク』『活動を継続し続けられる健康リスク』の3つを見ていく。

活動を終了、あるいは休止せざるを得ない健康リスク

重篤な病気の発症(中期以上のガンなど長期間の治療や療養を必要とするもの)、重い発作、重大な怪我、精神・心理面の憔悴など

 年単位で病院に入り、治療の経過を観察する必要のある病気や、命の危険につながるような発作症状がある場合、配信活動を行っても問題ないと判断できるまではまずドクターストップがかかるだろう。
 また、配信や動画投稿を行うことが本人にとって苦痛となるほど精神が消耗していたり、心理状態が悪い場合も活動を続けることは困難になる。
 VTuber本人が活動継続を望むか否かに関わらず、このような場合には重大な選択を下さざるを得なくなるだろう。

短期間の療養が必要な健康リスク

感染症への罹患、軽度の発作、早期治療のための手術入院、のど・声帯の炎症など

 新型コロナウイルスやインフルエンザといった感染症にかかり、症状が続く場合には、当然だが配信活動を中断せざるを得なくなる。ただ、先の例とは違って復帰の見通しは比較的立てやすい。
 手術入院や炎症の改善についても、どの程度の休養を取って活動を再開するか道筋を示しやすいため、VTuberとリスナー双方で信頼関係が築けていればパニックになることは少ないだろう。

活動を継続し続けられる健康リスク

寝不足など軽度の体調不良、日常生活に支障のない怪我など

 耐久配信の疲れが残っていたり、生活の中でちょっとした切り傷や擦り傷ができても、基本的に配信活動は続けられる。もちろん、元気を取り戻すために数日の休養をとるという選択も採れる。
 あくまでこのレベルであれば活動継続に支障はないが、ここで無理し続けた結果、先に述べたような重大な健康リスクを引き起こす可能性もある。そういった意味では軽視できないものと言えるだろう。

 その他、どのような場面で生じるかやリスクに曝される可能性の高さなどでも分類できるが、上記の二つの観点で分類したものについては比較的同意しやすいと思う。

配信者ならではの生活習慣が体を蝕む

 先に述べたような健康面のリスクは、事故や疾病の流行などによって突然にもたらされる場合もあるが、配信活動を生業としている方にとって当たり前となっている生活の仕方にも危険が潜んでいる。

 たとえば、VTuberの配信や動画投稿が活発に行われるのは、夕方から夜遅くにかけての時間帯だ。短ければ1時間程度、長丁場となるとアーカイブ保存の限界が来る12時間ギリギリまでやった上で、さらに2枠目を取って続けるパターンさえあるわけだが、実際にはこの時間分だけで生活が完結しているわけではない。
 食事や洗濯、入浴など日常的に必要な作業はもちろんのこと、スムーズにゲームを進めるための裏方作業やコラボ企画のための打ち合わせ、外部へ委託されている案件についての手続きといった諸々の事務もこなす必要がある。細かい交渉や作業をマネージャーが代行している企業系のVTuberであっても、自分自身で処理しなければならないものや提出物が様々あるため、表向き見えているよりも多忙なのだ。
 人によっては昼夜逆転生活になっている場合もあり、寝起きで配信を行ってから諸々の仕事をこなし、昼頃に就寝するといった生活を送っている。こういった普通ではありえない生活リズムが、知らず知らずのうちに体を蝕んでいる可能性は否めない。

 もちろん、昼夜で活動時間が逆転していたとしても、常に一定のリズムができていればそこまで肉体に負担がかかることはないだろう。しかし、企業に所属するVTuberの場合、普段とは異なるスケジュールで動かなければならないことが少なからず生じる。
 たとえば番組や企画の収録でスタジオに出向くとなれば、朝から丸一日使ってリハーサルや本番をこなすことになる。遠方から移動しなければならない場合は、そこに交通機関のスケジュールを踏まえた予定が入ってくる。何日か連続でスタジオや事務所を使うことになる場合は、慣れない場所で連泊しながら収録などに臨む必要も出てくるだろう。
 こういった一時的な生活リズムの変化が繰り返されると、当然体の負担も大きくなる。前もって昼型の生活に馴らしておくか、配信を明るい時間帯に設定するか工夫しておけば影響は少ないだろうが、一度固定のファンがついてしまうとなかなか生活習慣を改めるのは難しい。

 また、配信用のデスクに向かって仕事をする関係で普段から長く椅子に座る生活となるため、腰や背中に負担がかかりやすい点も注意が必要だ。
 特に、VTuberの場合はアバターの挙動を意識して同じ姿勢を維持する傾向がある。カメラの向きなどを調整し、極力無理のない座り方で映せるようにはしているだろうが、自身の動きが画角に収まるよう意識するうち、十分に腰や首を動かすことが減ってしまっている。この姿勢の固定化が、体に負荷をかけている可能性は十分にあるだろう。

運営は健康的な配信活動をサポートするべき

VTuberの自己努力では健康の維持に限界がある

 健康面の問題を解消するとともに、長く心身を良く保って配信活動を続けていくために、どういったことが必要だろうか。

 一つは配信活動を行うVTuber自身がスケジュールをある程度調整し、自分の体調が崩れないような負荷で活動していくことだが、これは実際のところ難しいと言わざるを得ない。
 あくまで趣味の範疇や作業時間に彩を与えるものとして活動しているのであれば、自身の都合に合わせた活動にすることはできるだろう。しかしながら、企業活動や個人事業としてVTuberをやっている場合、頻繁に休んだり配信時間を短くするわけにはいかない。金銭が絡んでいる手前、多少の無理をしてでも期待に応えようという意識が働くし、コンテンツの投稿が止まることで動画投稿サイトでの表示率が悪くなるといったデメリットも被ることになる。
 また、配信が楽しくてやっているという側面がある以上、多少の疲れや不調には無自覚になったり、状況を軽く考えて配信活動を優先してしまう可能性は否定できないだろう。取り返しがつかなくなってしまう前に休みを取ったり治療を受けたりして欲しいものだが、現状は自覚できるような症状が出ない限り無理をしてしまうパターンの方がよく見受けられる。

運営は定期的な健康状態のチェックを

 現状、体調不良やメンタルの不調に関しては企業所属であっても事後報告を前提とした体制になっている。そのため、VTuber本人が自身の健康状態を把握し、活動に支障がないよう自己努力で管理することで回っている状態だ。

 しかしながら、今後配信活動以外の分野で業務を行うことが増え、内部外部を問わずイベント開催やライブの実施なども多くなっていることを考えると、企業自身による予防的な対応も必要ではないかと思う。
 特に健康状態の把握については、企業から所属する各VTuberに対して定期健診の受診などを促した方が良いだろう。自覚できる症状があればある程度気づきようはあるが、そうでない健康面の問題は症状が進んでいてもなかなかわからないことが多い。頑張って活動していた子がある日突然倒れたりしてからでは、何もかもが手遅れになってしまう。
 医療機関で健康のチェックを行い、情報を把握しておくことは、ある程度そういったリスクを回避することに役立つ。企業側がサポートすることによって相応のコストが発生することは間違いない。それでも転ばぬ先の杖として、VTuberの健康管理に投資することは重要なことだ。

 VTuberというひとつのエンターテイメント界隈も話題に上がるようになって5年以上が経ち、通しの活動年数がそれなりになってきた方も多くなってきた。
 元気ややる気で押し通してきたものも、歳を経るにつれて徐々に無理が効かなくなってくる。太く短く活動を全うするというのも有意義な選択ではあるが、今後も配信活動をしっかりと続けていくために、VTuberと企業が連携して健康問題に取り組んでいくことは重要だろう。
 そろそろこのタイミングで、界隈全体が健康の管理に本腰を入れていく必要があるのではないだろうか。一ファンとしてはそういった思いを持たざるを得ない今日この頃である。

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