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エンターテイナーとストリーマーの境界 にじさんじライバーの二極性

 公式登録の配信者が累計で100人を超える大所帯となったにじさんじ。海外で活動するNIJISANJI IDやNIJISANJI KR、NIJISANJI ENなどを含めれば、常に100人以上が現役活動中である。

 このような一大プロジェクトとなった現在、各ライバーの活動分野やスタイルは実に多種多様なものとなっている。その一方で、同系統の事務所によるマネジメントという共通前提を持った集団でもある。ゆえに、バーチャルYouTuberの活動の性質を調べるのに格好の対象と言えるだろう。
 彼らの活動の特徴を捉え分類することは、配信者がライブや動画の中で意図せず意識しているスタンスを見出し、客観的に分類する上で役に立つ。今回は、僕が着目しているライバー活動の『エンタメ性』について取りあげるとともに、にじさんじをどのようなスタイルの集団が構成しているのかという観点で推察していこう。

『SEEDs』と『ゲーマーズ』という二極性

 にじさんじライバーの配信スタイルは、大別すると『物事からエンターテイメントを創造する配信』『物事を極める過程をエンターテイメントにする配信』の2種類から構成されている。後に詳細は述べるが、ここでは前者を『SEEDs型配信』後者を『ゲーマーズ型配信』と称することにしよう。

 『SEEDs型配信』は、そこで起きた物事や与えられた題材、テーマといった素材を元に、ライバーが番組を構築していく形式の配信である。緑仙やグウェル・オス・ガールのように、自らのアイデアで企画を立て、見知ったライバーを巻き込む配信は特にわかりやすい例だ。単独で配信するライバーにもこうした傾向の者は少なからず存在する。文野環や町田ちま、フミといったアクの強い配信を敢行するライバーはその代表格と言えるだろう。

 対する『ゲーマーズ型配信』は、与えられた題材やテーマを追求し、一定水準を目指して研鑽するタイプの配信だ。これはゲーム実況の配信を好むライバーに多く見られるスタイルと言える。元ゲーマーズのメンバーだけでなく、FPSやアクションゲームで強くなり上位ランクに昇る過程を楽しんでいるライバー、MinecraftやARKのようなやり込み型のゲームに長く熱中するライバーは、この分類に当てはまる者と言えるだろう。

 ライバー自身がスタイルを意識しているかどうかは別として、彼らの普段の配信は性格や発想と噛み合ういずれかのスタイルが主体となっている。これは統合前に参加したメンバーのみならず、統合後の加入者も含め全員に当てはまるものである。
 そして、コラボ企画や配信上での合流・交流においても、主となり立ち回るライバーのスタイルに引きずられる形で『SEEDs型配信』か『ゲーマーズ型配信』の展開が見られる。

 たとえば、Minecraftのにじ鯖で『SEEDs型配信』の傾向にあるライバーが集えばそこから茶番劇が始まり、複数人を巻き込んだ壮大なドラマが展開されていく。『ゲーマーズ型配信』の傾向にあるライバーが目をつけたゲームでは、大会が企画され、事前練習やプレイベントという形で大勢のライバーと視聴者を引き込むことによってお祭り騒ぎを展開していく。
 にじさんじというジャンルでは、こうしたライバーの動きから絶えず話題やイベント企画がもたらされ、それにともなう賑わいが生じている。ライバーのスタンスが二極に特化していることは、この流れを創出しやすくする上で役立っていると言えるだろう。

スタンスの違いが生み出すシナジー効果

 二極化されたスタンスは単独配信のスタイルを決定付け、また複数人の企画や出来事において方向性を決定付けるものとなっている。では、片方の傾向が強い配信に、もう一方の特徴を持つライバーが参加した場合、彼らの個性は埋没してしまうのだろうか。一方の良さばかりが強調され、他は数合わせの役回りに甘んじることとなるのだろうか。
 そんなことはない。むしろ、物事に対する捉え方や取り組み方の相違から新たな魅力、不思議な面白さを生むのが彼らの配信である。

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