2日目_191222_0145

私を自由にしてくれたことば

私が学科の展覧会のために作品づくりに取り組んでいた時のこと。

私が作っていたのは絵本だったが、絵本を作るのはこれが初めてで自分の文章が人に伝わるかどうか分からなくなっていた。


作品に限らず、人はなにかをクリエーションするとき、それをすすめればすすめるほどその過程でそれでいいのか自信がなくなっていくのではないか。

少なくともその時絵本を作っていた私は作品を作り込もうとすればするほど苦しくなっていた。その苦しさは「この作品を作ったところでそれが誰かに届くのだろうか、作っても意味がないのではないだろうか」というような苦しさだったように思う。


作品を終わらせることは私にとって本当に骨が折れる作業だった。

というのも私は高校生まで小説家になりたかったのだが、なりたいと言っておきながら作品を完成させることが一度もなかった。

書き始めることはできる。だけど、続けられないのだ。

物語を作るのは大好きだったがそれを終わらせることが大の苦手だった。


だから絵本を作っているときも苦しかった。私の絵本は稲の一生を描いた話で春夏秋冬で終わらせることは初めから決めていたので、小説を作ろうとしていたときよりはだいぶ楽だった。

だけどやっぱり自分が書いた物語が人に対していい方向にはたらくかが気になっていた。いや、実際のところ、それまではなにが不安だったのかは分からなかったが作品を作っている時はなにかしらの不安が心の中にあった。もちろん物語を綴っていくことを楽しんでいた部分もある。そうでないと完成できない。ただ、不安が楽しさを上回った時に私は物語を書くことを続けられなくなるのかもしれない。


不安を持ちながらの中間発表。

実際のところ、中間発表ではあったが私は絵本など一切出さずに自分の思考を書きなぐった絵コンテでもなんでもないただの用紙を数枚出した。


すると、ある一人の先輩から

「あなたはあなたのやりたいことをやればいいんだよ。人のためにとかそういうの考えなくていい。あなたの作品や行動にはもう既に周りの人への思いやりがはいっている」

と言われた。


その言葉に自分はなにも考えていなくてもその行動にはすでに周りの人を考えて動いていることが含まれているのか、と気づかされた。

私は自分のやりたいことを周りの反対があってもやる方だから人のことをあまり考えないと思われがちだし、自分でも人の意見をあまり気にしないと思っていた。

だけど実際は人の意見がとても気になるし、周りの人の助けになりたい。

とはいえ自分の道は自分でしっかり決めたい。そしてその道は世間や社会が正解とするような道ではないことが多い。その矛盾によって悩むこともたくさんあったし今も悩む。

だけど先輩のくれたその言葉が私の心を自由にしてくれた。


自由に動いていい。自分の思うように動いていい。それが必然的に周りの人を助けることにもつながっている。

自分の中で悩んでいたことをふっと軽くしてくれた言葉だった。

それから作品づくりも周りのことを(必要以上に)考えずに自分のつくりたい作品をのびのびと作り終えることができた。

もう一つ、私を自信づけてくれた言葉がある。

これは別の先輩に展覧会が無事に終わったときに言われた言葉。

先輩:「あの作品めっちゃよかったよ。中間発表ではどうなることかと思ったけど笑」
私:「すいません、中間発表あんなんで、、、笑」
先輩:「でも、終わらせられたじゃん。よくあれを作品としてまとめられたね」

これを聞いた時にいままで作品を終わらせることができなかった自信のない自分から少しだけ解放された気がした。

人は失敗を重ねると次もまた失敗するのではないかと思ってしまう。そう思ってしまう分その負のイメージが強くなり、そのあと失敗してもああまたかと失敗してもそれが当たり前になってしまう。

私がそうだった。小説を書き始めることは好きだったし、こんなキャラクターがいたらいいな、とかこのキャラクターにはこういうことを言ってほしいな、とか物語を作っていく過程はとても好きだった。だから違う物語をたくさん書いてはまた別の物語にいった。

物語というのは必ず結が必要でシリーズものであろうが続編があろうが、その物語は終わらせなければいけない。

だけど、私はその物語を終わらせることができなかった。

その”私は物語を終わらせることができない”という事実はどんどん私を物語を書く世界から離していった。そして年を重ねるにつれて物語を書くということはほとんどなくなってしまった。

だから絵本を描くということは久しぶりの物語を綴ることへのチャレンジだった。

そして、はじめて物語を終わらせることができた。

それを褒めてもらえた。


私は名言を調べることが好きでよく調べたりするが、この先輩たちからもらった二つの言葉がNEVERまとめにのることはないだろう。

だけどこのもらった言葉はネットで調べて「ふむ、いいな、なるほどな」と思うどんな言葉よりも私にとって価値がある言葉になった。


きっと、名言のような万人受けする言葉よりも、その人にしか価値が分からない言葉ほどその人を自由にして勇気づけるのではないかと思う。

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