Un long moment
「ラマダンでもないのに毎週月曜断食をして、週末は欠かさずジムに通って、哲学の本を読んで
どうしてそんなに頑張っているの?人生を豊かにしたいの?欲を捨てたいの?」
ムスリムの彼のことを知りたい、なんて意図は全くなく、ただ興味本位で聞いた。
「なんで鍛えているんだろう、考えたことなかった。
自分はいい職場で、いい給料をもらって、健康で、イージーな人生だ。
だから何かしないと、貧弱になってしまう。
それに、尊敬できる賢い女性と結婚したいから
強くて賢くて尊敬されるような男性になる必要がある。
幸せな家庭を築くことは、とても大切だし。
君は、それが必要だとは思わない?」
これを聴いてからの1分1秒が、とてつもなく長かった。
どうして彼は私のことが好きなんだろう。
彼ではない、もう会わなくなって久しい昔の男を
毎晩恋しく想ってるのに。
磨き抜かれた彼の人生に値する女じゃないし
彼の愛には、微塵も応えられない。
「私は、君が単純にトレーニングが好きってこと知っているけど
もし君が理想の女性に出会えたとき、君の努力は彼女の重荷になるんじゃない?
もうすこし楽に考えられる気がする」
おそるおそる言葉を振り絞る。
彼とは恋人同士なんかじゃなくて、人生とか映画とか、ぼんやりしたことを
散歩しながら楽に話せる友達でありたい。
「うん、君の言う通りだね」
彼は一言そう返事をして、そういえば新しい仕事はどう?と尋ねてきた。
おいしい味噌汁を飲みにいきます。