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祈りの風景

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#熊野

第1章 荒ぶる神への祈り



玉置山のゲニウス・ロキ

 夕暮れが間近に迫る頃、熊野の果無し山脈の奥深くに位置する玉置神社の入り口にようやくたどり着いた。

 里からつづら折れの狭い道を1時間あまり、途中には集落はおろか人家すら一軒もなく、濃密なスープのような森の中を潜り泳ぎするように進んできた。

 こんな山奥に熊野でも有数の名社があるのだろうかと途中から心配になった。出発の時間が遅かったため、どんどん日が傾き、逆に森の

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第4章 黄泉の国への想い



花の窟

 真っ白い大岩と、そのたもとに敷き詰められた白い玉砂利が、南天した夏の日差しを受けて眩しく輝いている。南国の空気はオーブントースターの中にでもいるように焼きつき、せめて直射日光を避けようと、人も鳥も濃い影を落とす木立の下に避難している。

 目のくらむ日差しの中で、一人の老人だけが、大岩の前で正座し、くぐもった声で祝詞を唱えながら、額を玉砂利に擦りつけるように何度も何度も叩頭している

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