第2回:「良いデザイン」を見極める~デザイン評価におけるユーザーと多様性視点~
私たちDNPコミュニケーションデザインは、情報の伝達やユーザーとの接点を通じて、コミュニケーションをデザインし社会に貢献することが使命だと考えています。
デザインには、美しさだけでなく、機能性や使いやすさ、社会性・多様性など、多面的な視点が求められています。
情報を、ヒトを、ミライにつなぐために、常に新しいアイデアや技術を取り入れながら、より良いデザインを目指しています。
では、どうしたら良いデザインを作ることができる?
そもそも良いデザインとは何?
デザインを評価することは非常に難しいことだと思いますが、私たちがデザインを評価し作る際に大切にしていることが2つあります。
❶ユーザーを知ること
ユーザーのニーズや行動、環境などを観察し、理解することで、よりわかりやすく使いやすいデザインができると考えています。
例えば、自転車の駐輪場のデザインを考える際には、自転車利用者がどのように利用しているかを観察し、ニーズに合った駐輪場を設計することが重要です。
ユーザーを観察することで、作り手視点ではなくユーザー視点でデザインするとができ、結果的によい体験を提供することができます。
❷多様性へ配慮すること(ユニバーサルデザイン(以下UD))
UDとは、可能な限りすべての人が利用できるように設計された機能やデザインのことを指します。身体的・認知的・文化的多様性を考慮して、あらゆる人が快適に利用できるようにデザインされています。
例えば、車いすを使う人、視力や聴力に制限のある人、年齢や文化的背景の異なる人などが使いやすいようにデザインされたスマートフォンやWebサイトがその好事例と言えます。
UDは、多様性を受け入れる社会を実現するために必要なデザイン思考であると考えています。
この2つの考え方をもとに、
「いまあるデザインを、より良いデザインにしたい」というクライアントの要望に対して提供しているソリューション、「UDエキスパートレビュー」について紹介したいと思います。
UDエキスパートレビューとは
複数のUDコーディネーター(ユニバーサルデザインの視点で問題解決ができる人材)が、UD視点で印刷物などの各種メディアのコミュニケーション上の課題を洗い出すサービスです。
DNPのメディア評価基準をもとに定性的なヒューリスティック評価・分析を実施し、課題を整理、クライアントにレポートを提出し課題の共有を行いながら、改善策を立案しています。
当社は2007年からこのサービスの提供をしており、もう15年くらいになります。今ではUDコーディネーターの数も約350名となっており、私たちがデザインする上で非常に重要なプロセスの一つとして位置付けています。
今日は、私たちがUDエキスパートレビューを通してどんなことを考え、どんなことを大切にしているのか、当社のUDコーディネーターの佐野亮太さんに話を聞いてみました。
UDエキスパートレビューはどれくらいの頻度で実施しているのですか?
佐野亮太(以下、佐野):私は当初、デザインを評価するということで構えてやっていたのですが、今では課題抽出の方法として当たり前に、日常的に行っていますね。
ただ、見れば見るほどいろいろな課題がでてくるので、気づくと1日中レビューしていた!という日もありますね (汗)
1日中!(汗) 実際にクライアントから依頼があった場合は、どれくらいの期間で対応できるものなのですか?結構短納期な案件もあると思いますが。
佐野:レビュー対象メディアのボリュームにもよりますが、評価・分析レポート作成含め、2~3週間ほどですね。とはいえクライアントの要望や状況に合わせて、もっと短い時間で対応することもあります。
日常的にUDエキスパートレビューを行っているということですが、一般的な評価分析とは何が違いますか?
佐野:メディアの評価分析は、一般的には文字サイズ・フォント・色など表層的な見た目を評価する場合が多いです。
もちろんUDエキスパートレビューも見た目の評価もしますが、それが「ユーザーの行動に及ぼす影響」も含めて、UD視点・コミュニケーション視点でレビューしているので、メディアにおけるコミュニケーション上の本質的な課題をより多く洗い出すことができると考えています。
UDエキスパートレビューをデザインのプロセスとするメリットはありますか?
佐野:パッと見で、良いデザインに見えるものがありますが、よくよく見たり読んだりすると、内容がまったくわからなかったりするんですよね。そこで、このUDエキスパートレビューをすることで、メディアの情報構造上の本質的な課題を発見できるんです。
また、複数人でレビューするので、複数のユーザー視点での新たな発見もあります。そして、なによりクライアントに喜ばれているのは、「デザイン改善のエビデンスになる」ということです。
例えば、クライアントの担当者が、デザイン改善の根拠を上司から求められたときに、この評価分析レポートが役に立ったという声をよくいただいています。
メディアの情報構造上の本質的な課題を発見する、言葉だけ聞いてもかなり難しいことのように感じますが、特に大変なことはありますか?
佐野:2つあります。
まず、情報の全体を把握する必要がある、それが大変ですね。例えばDMには「複数の印刷物が同封されている」ことがよくあります。その中の1つだけを見ても、真の問題解決にはならないですね。
複数の印刷物の情報が、お互いに影響し合うなかで、ユーザーはそれらの情報に接しながら、理解して行動しようとするので「情報全体の構造や関係性を把握する」ことが大事ですね。
もう1つは、例えば、さまざまな種類の申込書などがあった場合です。以前、一度に最高で20,000ページくらいレビューしたことがあります。あの時はさすがに目まいがしましたね(笑)。課題は100以上抽出されるときもありますが、その取り纏め、レポーティングも大変ですね。
そして、複数の課題を発見したからといって、一つひとつ全部改善しようとしても、真の問題解決にはなりません。
数ある課題の本質を見極めながら、改善策をコーディネートする、それがプロである私たちの腕の見せ所ですし、役割だと考えています。
UDエキスパートレビューを通じてうれしかった体験を教えてください。
佐野:クライアントから、情報構造もデザインも抜本的に良くなりDNPコミュニケーションデザインにお願いして良かったと評価いただけたときですね。
特に、申込書などの「不備率が改善された」とクライアントから連絡をいただいたときは、最高にうれしいですね!
最後に、この取組みを通じて、どんなことを伝えたいですか?
「良いデザイン」とは「伝わるデザイン」だということです。
情報提供者の想いが正しくユーザーに伝わっているか、情報を受け取るユーザーが良い体験ができているか、そこにコミュニケーションギャップが生じていないかを、必ずユーザー目線で考えデザインすることが重要です。
また、デザインを改善する際も同じで、まずはコミュニケーションギャップを把握する、その上で課題解決するためにデザインを改善する。
このプロセスを踏まないと独りよがりのデザインになりがちで、そこに良いミュニケーションは生まれないと思います。
新しいデザインする、もしくは今あるデザインを改善する際には、そのデザインにコミュニケーションギャップを生じさせる本質的な課題が無いかを考えることが「良いデザイン」であり「伝わるデザイン」だと思います。