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コラム Blender 4:AnigoAnimationとの出逢い

 

 2008〜2009にかけて名古屋-東京-大阪とBlenderのユーザミーティングイベント(Blender Party)を終えてしばらくした頃、Blender.jpのフォーラムでスペインのヴィセンテ・カルロ:Vicente Carro (AnigoAnimation CEO)という人が日本のアニメ風のセル画調アニメ『ABC of AKARI』を作るのにクラウドファンドで製作資金を調達したいのだけど、日本側で誰か手伝ってくれる人を捜しているという投稿を発見した。
 AnigoAnimationはBlenderをメインツールとしてアニメ製作をしているスタジオだという事だった。

▲AnigoAnimationのアニメ製作システムの紹介ビデオ

 ▲当時のヴィセンテ・カルロ氏のAnigoAnimationのサイトのスクショ

 このちょっと前に、私は縁あってフランスのVFXデュオ「セス・イッカーマン:Seth Ickerman」の製作した『カイダラ:KAYDARA]』という映画の公式日本語字幕を作成していた。
(その辺の詳細については私の当時のブログのアーカイブで紹介している)

この作品は映画『マトリクス』のファンメイドによるスピンオフ作品で製作に実に6年の年月を費やしている。

 その日本語字幕作成をなんとかやり遂げた事もあってか、当時何故か自信があったのだろう。全く根拠は無いのだけど、英語のやり取りでもなんとかなると判断し、ヴィセンテ・カルロ氏のサポートする事を引き受けることに……

 とりあえず自己紹介と経歴、そして自分が手伝えそうだという事を書いてヴィセンテにメールした。それが2012年11月25日のことだった。

 その後、お互いメールでやりとりしながら、私は彼のプロジェクトについて理解を深めていったのだが、スペインと日本の感覚の違いでなかなか大変だったのは憶えている。

 当初は海外の有名クラウドファンドサービスを使う予定だった。しかし彼は彼のチームと共にインディゴゴー(Indiegogo)では既に失敗していたので、もう一つのキックスターター(Kickstarter)でという事だった。しかし、キックスターターは巨大サービスサイトなので、かなり目立たないとプロジェクト自体埋もれてしまうのでかなり難しいのではと進言した。

 その頃は日本でもクラウドファンドがちょっとブームになり始め、色々なサービスが続々と登場しはじめていた頃だった。(今残っているサービスは僅かだが)

 そんな中、グーパ株式会社さんのアニメーション分野に特化したクラウドファンディングサイト「Anipipo(アニピポ)」というサービスが始まるという情報を入手。
「これだ!」と思い早速ヴィセンテに連絡した。
 アニメに特化したクラウドファンドで、しかもこれから始まる新サービスで、海外と日本で同時展開。当に願ったり叶ったりのサービスだった。
 アニピポの5月のスタートに間に合わせるように毎日色々仕掛けや仕込みについて話し合った。(その頃ヴィセンテは子供が生まれ、しかもスペインからアイスランドへの引っ越しという時期だったので、彼は結構忙しかったと思う)

 なんとか頑張って、AnigoAnimationの『ABC of AKARI』プロジェクトがアニピポのオープンと同時に掲載された3件のプロジェクトの一つにがなった。

▲クラウドファンドが始まった頃のAnigoAnimation公式サイト

 ▲当時アニピポのプロジェクトページに掲載したティザー予告


▲アニピポのサイトに掲載されたAnigoAnimationのプロジェクトのスクショ
▲来日したヴィセンテ・カルロ氏(2013年)、「春だ一番!Blender祭り」にてセル画調キャラ作成について登壇(通訳:トニー・マレン氏)――ヨコハマ創造都市センターにて

 当時、業界的にもアニメに特化したクラウドファンドは珍しかった事もあって、アニピポはアニメ関連のネットメディアでも結構採り上げられた。

▲当時、アニメ!アニメ!に掲載されたアニピポの記事のスクショ

 クラウドファンドプロジェクトを展開するのにはかなり良い条件が整ったので、個人的にはイケるかなと思ったけど、世の中そんなもんじゃない。実際考えが甘かった。

▲クラウドファンドの集客イベントとして主人公の髪型の投票も試みた

  結局このクラウドファンドチャレンジは、結果的に目標未達に終わった。
 (ちなみに、アニピポというアニメに特化したクラウドファンディングサービスは2020年現在はもう存在しない)

 ガジェット系商品のクラウドファンドと違い、この様なコンテンツ系のクラウドファンドの難しさは、最初に緻密な戦略を立てて、キャンペーン中は応援してくれる人を厭きさせないように定期的なイベントや頻繁にプロジェクトの進捗を更新する必要があるという事。途中でそのことに気がついたのだが、そこからの巻き返しや修正は結構大変で、その辺のドタバタもあってプロジェクトの成功までには至らなかった。
 しかし、おかげで色々学ぶことが出来た。
 ヴィセンテとの出会いが無ければ、様々なチャレンジや可能性は生まれてこなかっただろう。
 このすぐ後にプロジェクトに参加してくれた世界中のBlenderアーティスト達が再びこの『ABC of AKARI』をベースにしたスピンアウトのアニメ製作企画を立ち上げることに。
 それが『あかりの誓い』プロジェクト。

あかりの誓いプロジェクト
主人公のアカリ
アカリのバイク(ヴァイルス)
主人公のアカリ初期レンダリングテスト
あかりの誓いkickstarterプロジェクト

 しかしながらこのプロジェクトも本家同様残念ながら失敗に終わりプロジェクトも解散。
 この時点では再び彼らとコラボする事になるとは知る由もない。

 という事で私が現在noteで執筆連載している小説『DAWN OF AKARI -奏撃のい・ろ・は-』は、実はこういう背景があって生まれたのだ。


 このクラウドファンドの後、ヴィセンテはハリウッドのアカデミー賞特殊効果部門にノミネートされた映画『エベレスト 3D』(原題: Everest)にVFXパイプラインとして参加する事に。

 そして彼は現在『EVE Online』(イブ オンライン)で有名なアイスランドのCCPゲームズというゲームメーカーにテクニカルアーティストとして参加している。

 後日談ではあるが、私が岐阜市のギネス記録挑戦イベントのスタッフとして参加していた際に、ネット生配信用のオープニングアニメを彼と製作する事になるのだが、その顛末ついては後日あらためて述べるとしよう。

 


――――続く


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