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今までも良かった。でもこれからはもっと楽しいよ。

カズオ・イシグロがノーベル賞をとってから彼の作品を書店で見かけることが多くなり、ずっと気になっていた。でもなぜか「よくわからない小説に違いない!」と思って敬遠していた。

それが「さあ読むぞ!」となったのは、村上春樹がカズオ・イシグロの小説をよく読むと言っていたからです。

この本は、簡単に言うと、執事のStevensがイギリスの田舎を旅しながら過去を振り返り、旅の最終地点で以前の同僚Ms.Kentonに会うお話。

カズオ・イシグロがどんな話を書くのかも知らなかったし、あらすじも知らずに読み始めたもんだから、この(良くも悪くも)頑固ジジイ的なところのあるStevensはその頑固さゆえに破滅の一途を辿るのだろうか...とか、はたまたようやく会えた同僚には「おまえのことなんか大嫌いだった」と告げられ大喧嘩するんだろうか...とか、一抹の不安を抱きながら読み進めていく。そんな話なんだとしたら、この表紙の清々しさはなんだろう...と恐れ戦いたりもした。

読んでみたら分かると思うが、全くそんな話ではない。自分のネガティブさに驚いた。


努力して積み上げてきたものがあるからこその頑固さをもつ人が、私は嫌いではない。本人はその頑固さ故に幾分損をすることもあるだろうし、私がMs.KentonだったらStevensの頑固さに小麦粉ぶちまけて喚きたくなるぐらい頭にくることもあっただろうけど。かく言う私も、けっこう頑固だと思う。

頑固一徹、イギリスの美しい田舎風景もそこそこに「真のbutler(執事)とは〜〜〜」と延々と語り続け、過去を振り返るStevensが最後に見せる痛み。

Ms.Kentonやたまたま隣に座ってきたおじさんの言葉で、「The Remains of the Day」に込められた意味がようやく分かる。

人は何かを信じることなく努力することはできないけれど、その信じていたものが間違っていたらどうすればいいのだろうか。間違っていたからといって、やり直すこともできない。自分の全てを賭けてきたものだから、もう差し出して賭けるものがない。

自分は空っぽで、もう心躍る出来事なんてないんだ......
.................否!!!!!!!!!!!!
と言ってくれるのがこの一冊。

ライトが灯る場所、ロンドンではないのだけれど、この本を読んでいる時の私の目の前には、テムズ川の向こうに見えるビッグベン、右目の端にはクリスマスマーケットが広がっていた。
(季節冬じゃなかったかも?...細かいことは良いのだ! )

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