救いがないとしても
久しぶりの読書記録。
最近「世界の小説大百科 死ぬまでに読むべき1001冊の本」という分厚くて重い辞典のような本を手に入れ、その1001冊を読むことを人生の目標にしようかしらと考えている(ちなみに恥ずかしながらまだ14冊目)。
でもそこに載っていない本だって読みたいし、昔読んだ本を再読したくなることもある。
そこで手に取った「ノルウェイの森」。
高校生の時にはじめて手に取った村上春樹の作品が、「ノルウェイの森」だった。
それは随分昔のことだし、当時の私にはこの作品の良さがあまり分からなくて、先日「ノルウェイの森って、ノルウェイが舞台なの?」と友人に聞かれた時には「そうなんじゃない?知らんけど」と答えたくらいだ。「読んだことがある」なんて恥ずかしくて言えないレベルですね。
というわけで内容をきれいさっぱり忘れて「よく分からなかった小説」になっていた「ノルウェイの森」を、今もう一度読んでみたいなと思った。
高校生よりは「大人」になってから読んだ、「我らの時代のフォークロアー高度資本主義前史」とか、「女のいない男たち」とか、村上春樹の書く恋愛の話がけっこう好きだから、という理由もある。
再読してみて、高校生の私は「人がこんな風に死を選ぶというのはよく分からない」とか「なんでみんなこんなに病んでるの」とか「なんで登場する女性ほぼ全員とセックスするのか意味不明、そんなにセックスする必要ある?」とか思っていたなあ、と懐かしく思った。大切な人を失うという経験もしたことがなかった高校生の自分を、少しだけ羨ましくも思ったりした。
そしてやっぱり、もう一度読んでみて良かったと思った。
以下ネタバレを含むと思うので、嫌な方はこの記事を閉じて頂いた方がいいと思います。
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まず、高校生の時の私の疑問「なんであんなにセックスしてんの」に答えるなら、今の私は「それは結びつきのメタファーのようなものじゃないのかな」と答えるだろう。
レビューを読んでいると、レイコさんとのセックスに違和感を感じる人が多いような気がする。私も最初はこれ必要あったのかな...と思ったけれど、レイコさんがこれからも生きていくためには必要だったのだろうなと自分の中で納得した。
逆にワタナベがナオコとセックスできなかったのは、ワタナベがこれからも生き続けていく存在であるのに対し、ナオコはもう生よりも死の世界に近づいてしまっていたからなのかなと。
こんな私の詰めきれていない慣れない考察なんて公共の場で発信するほどのものじゃないなと思うけれど、そのセックス描写の多さ故「気持ち悪い」というレビューも散見されるのが一読者としては少し悲しくて書いてしまった。
私はこの作品の、「優しい諦め」と「魅力的な登場人物」がとても好き。この2つはどちらもこの作品に限ったことではなくて、村上春樹の作品の多くに共通する魅力だけれど。
確かにこの小説の登場人物はみんな病んでいるけれど、大切な人を亡くして病まない人なんているのだろうか。程度の差はあるにしても。
いるのなら、私はその人のことを信用しないと思う。真っ裸で私の目の前に現金と共に現れて、「君を傷つけるものはこの通り何も持っていないし、この1億円全部あげるから信じてくれよ」と言われたとしても、信用しないと思う。
ナオコの死後、海辺でのワタナベの言葉が刺さる。
どのような真理をもってしても愛するものを亡くした哀しみを癒すことはできないのだ。どのような真理も、どのような誠実さも、どのような強さも、どのような優しさも、その哀しみを癒すことはできないのだ。我々はその哀しみを哀しみ抜いて、そこから何かを学びとることしかできないし、そしてその学びとった何かも、次にやってくる予期せぬ哀しみに対しては何の役にも立たないのだ。
哀しいことには一生慣れないし、何かを失うたびに私の中には空洞が増えていってしまう。
でもそれが生きるということなんだよ、みんな空洞を抱えながら生きていくしかないんだよ、と言ってくれるところが、私が村上春樹の作品を愛する最たる理由なんですね。(「ノルウェイの森」がノルウェイが舞台だと思ってたやつが大口叩くなよっていう話ですよね)
それは「どんな世界にも救いはある」と言われるよりも、私にとっては救いであったりする。
それから、私はこの作品の中では緑がとても好きだった。
「ねえ、私が今いちばんやりたいことわかる?」シリーズはいつも笑ってしまった。下品なことばっかり言ってるのに、あんなに可愛いのずるい。
私的には緑はこの作品の中で生の象徴で、「ワタナベが緑を選んだ=これからも生きていくことを選んだ」だと勝手に納得している。(異論は認める)
ワタナベくんも素敵よね(突然のクン付け)。
「じゃあ私のおねがいをふたつ聞いてくれる?」って言って「みっつ聞くよ」なんて言われたら、私の中のチャンカワイが暴走してしまう。
これだから、村上春樹の作品はやめられないんだ。
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