インドのヨーガ事情(YCB認証試験とか)

 2015年から『国際ヨガデー(国際ヨガの日)』なるものが出来て、日本でもあちこちの都市で毎年6月21日(夏至の日)に各種のイベントが行われている。インドのモディ首相が前年の2014年に国連総会とWHOに働きかけて制定され、世界中でYOGA愛好家が中心となって盛り上げられている。この時、モディ首相が語ったのは以下である。

ヨガは、古代以来のインドの伝統が生んだ貴重な贈り物である。既に5000年の伝統がある。ヨガは身体と精神、思考と行動、抑制と実践の統合を実現させ、また、人と自然の調和、健康と福祉へのホーリスティックなアプローチを実現する。ヨガは単なるエクササイズではなく、自身の中に統合された感覚を見いだすものである。私たちのライフスタイルを変え、意識を高めることによって、幸福への助けとなる。国際ヨガの日の採択に向けて、ともに働こう。

 — ナレンドラ・モディ、国際連合総会

国際ヨーガの日


 ここで『ヨガはインドの伝統』『単なるエクササイズではない』等の文言に注目したい。
 21世紀初頭、インドの大都市に住むセレブ達の間にハリウッドセレブが好んで行うようなヨガが流行し始めたという。

【ここから妄想を含む😅】
 インドのセレブにヨガを教えるのは、全米YOGAアライアンスの資格を持ったインストラクターなんですかね?。
 日本でも同資格保持者が大勢いらっしゃいますがヨーガのアーサナと、体操のポーズとかストレッチのポーズとかピラティスとの違いを説明できるインストラクターは何割ぐらいいらっしゃるのでしょうか。
 ヨーガの歴史やら哲学やらの説明はどうでしょう?『ヨガはインドの伝統』とプライドを持つインドの土地に教えに行くインストラクターってどんな人なんでしょう?お話しを伺いたいものです(冗談ではなく本当にどんなドラマがあったのかを知りたいと思っています)
 ビジネス雑誌に掲載されるようなエスキモーに冷蔵庫を売りにいったセールスマンの話は「これさえ有れば食べ物が凍ってしまわないですよ」というものらしい。本当にそんなセールスマンがいたのかどうかは知らないのですが、もし日本人だとしたら一流大学を卒業して三菱商事あたりの超一流総合商社に就職して、ユダヤの商人辺りと丁々発止で波瀾万丈のやりとりで実績を上げたもののライバルに足を掬われてアラスカに飛ばされた。とか、妄想が捗ります(笑)
【妄想終わり】

 さてYOGAの話に戻ります。21世紀初頭にインドの都市部でエクササイズ的なヨガが流行し始めたのは事実です。そんなに都市部ではない、リシケシという街は昔、田舎町でアーシュラムもヴェーダーンタ哲学を教えるスワミが居る処だったのが、ビートルズ以降観光客が増え、観光客の懐を狙った商売人が、「よし俺も一丁やってやろう」と即席グルに変身したそうで『ヨガの里リシケシ』とはヴェーダーンタのスワミ、似非グル、本物の修行者、欧米人のヨガインストラクター等々玉石混交で出来上がったと、古くからのこの街を知る人が言っていました。
 ここのグルに対して「あなたのグルは誰ですか?何処に住むどの様な系統ですか?」と聞いて、答えの内容にある程度の理解と会話が出来る位の前提知識を仕入れてからでないと似非グルによる詐欺被害に合いそうです。

 インドのYOGA界でも全米YOGAアライアンスなるモノが世界中(インドも含む)で流行することに対して危機感を抱いた様で、普段であれば絶対に顔を合わせないようなYOGA界の重鎮(?)達が今後の方針について打ち合わせたそうです(例えば、当時はまだご存命だったアイアンガー氏とパッタビジョイス氏が一つのテーブルについたり、ヴェーダーンタのスワミとハタ・ヨーガのサニヤーシンの組み合わせ等)その結果、インドのヨーガ改革が始まったのです。
インド・ヨーガ協会(Indian Yoga Association)という業界団体がモラルジ・デサイ国立ヨーガ研究所(MDNYI)主導により2008年に結成され、ヨーガのガイドラインが作られることになりました。モディ首相による国連総会の話はこの流れによるものです。インド政府AYUSH省Ayurveda(アーユルヴェーダ)、Yoga & Naturopathy(ヨーガと自然療法)、Unanī(ユナニー)、Siddha(シッダ)、Homeopathy(ホメオパシー)の頭文字。日本の厚生労働省的な省でインドの伝統的な医療(西洋医学ではない、昔ながらの補完代替医療を管理(研究開発や、規制・保護、品質管理など)する省庁)の方針によりヨーガは規格化され、実習時には最低限やるべき内容のガイドラインが定められました。それがモラルジ・デサイ国立ヨーガ研究所の『ヨーガ共通プロトコール(Common Yoga Protocol)』(※1)です。規格化とは別に資格化と学歴化も制定されました。ヨーガインストラクターとかヨーガティーチャーとかヨーガマスターを名乗るためにはYCB(Yoga Certification Board/ヨーガ教育委員会)の検定試験がそれです。学歴化としては各大学に「ヨーガ学科」が新設されました。


YCB試験の教科書

 インドの宗教史やら哲学史上の保守本流であるヴェーダーンタの教えでは、肉体を穢れたものとして捉えているとしか思えませんが、ハタ・ヨーガは肉体(の中を流れるエネルギーといわれる『プラーナ』)を取っ掛かりにして解脱を目指すものです。そのハタ・ヨーガを伝えてきたのは基本的にサードゥと呼ばれるホームレスです。
 一方、ヴェーダーンタはバラモンと呼ばれる最上位カーストの家業の人達が伝えてきたものです。バラモン教とはバラモンの家系に生まれた男子が継承する家業の宗教で、女子は対象外だし外国人がヴェーダの恩恵を受けるためにはインド人に生まれ直して、バラモンの家系の男子に生まれてくる必要がありました。家業としてのお金儲けは王族や大商人の現世利益のために、戦勝祈願、子孫繁栄、商売繁盛 等の祭祀を行っていたのです。バラモンの唱えるマントラは神々を使役することが出来たのですが、その恩恵をうけることが出来たのは上位3階層だけでした。
 その昔『ヴェーダ』の詠唱を聞いてしまったシュードラ(四つのカーストの最下層)は、耳に溶けた金属を流し込まれる程の差別が有ったのです。
 保守本流の更に中核に居るゴリゴリのヴェーダーンタのバラモンがハタ・ヨーガの不可触民出身のグルとテーブルを同じくするなんて、なかなか信じ難いシーンですね。そこまでの必要性を感じるほど「外国勢のヨガ」に対する危機感が有ったのでしょう。
 現在のモディ首相が属するインド人民党(BJP:Bharatiya(インドを示す古来の名称)Janata(人民)Party)政権が猛烈に推し進めている「ヒンドゥー至上主義」の後押しも有るのでしょうが、ヴェーダーンタ学派が保守本流として不動の位置を確立しています。
 ヨーガ改革においても同様で、「バガヴァッド・ギーター」というヨーガ教典/聖典(コーランや聖書的位置づけ)ではあってもヨーガ哲学ではない書物がYCB試験の教科書の中でも重要な項目として鎮座しています。またハタ・ヨーガ系の聖典ハタ・プラディーピカ、ゲーランダサンヒター等には記述のない、(ヴェーダーンタの唱える神学で教える)パンチャコーシャとか、YOGAと名がつくものを何でも放り込んでごった煮にしているような感じがします。ギーターのヨーガとは、どう読んでもヒンドゥー教の宗教実践あるいは神学だと思うのです。日本の宗教でいえば浄土宗の教義を叙事詩仕立てにしたものに見えます(異論は認めます)ヨーガ資格取得を一般人が知っているようなことに置き換えて考えると極端な例として、野球が好きなのでアメリカの大リーグを目標とした人は、キリスト教の聖書を勉強しろ!と言われているように感じます。
 標準化の項目のひとつにギーターが含まれるのはインド国内向けの話なのは理解できますが、外国人である我々にとって重要なことでしょうか?
 視点を変えて、各種のYOGAをごった煮にして我々日本人にとって良い事は、佛教のヨーガやジャイナ教のヨーガも取り上げている事でしょう。そもそも『ハタ・ヨーガ』という言葉の初出は佛教教典(『秘密集会タントラ』8世紀)といわれていますからね。さらに言えばヨーガ・スートラの八支則の第一則「禁戒ヤマ」の原型は佛教の八正道だし、さらにその原型はジャイナ教の教えにまで遡ります。(スートラのヤマとジャイナ教の「大誓戒マハーブラタ」は全く同じ文言が同じ順序で並んでいる)
 佛教から始まった風習といえば、インドの菜食主義は大乗仏教の僧院で始まり、バラモンが継承したものです。佛教僧院がパトロン(王様や大商人等)の出資により作られるようになる前は、托鉢でしか食料を得る手段が認められていなかったので、肉だろうが腐りかけであろうが、何でも食べていたのです。僧院が作られるようになったことで畑を耕すようになって肉食が禁じられたといわれています。一方のバラモンはどうかと言えば、ヴェーダの時代では祭壇にべた、牛だの鶏だのの供物はバラモンにとってもご馳走だったのです。肉を食べる事を穢れとするのはバラモン教の時代ではなくヒンドゥー教の時代になってからの新しい伝統といわれています。
 さてこの様なインド政府主導の『ヨーガ改革』が行われる事で、どんなメリットが有るのでしょう?
 インド国内の似非グルビジネスを撤廃する事が可能です。YCB認定試験に合格していない場合、ヨガインストラクターやらヨガティーチャーとは名乗れないのですからね。コレは日本で言うとカイロプラクティック資格の無い整体師がプロとして人様の身体を触る事が認められないのと同じ事です。
 インド政府はYCB認定試験によって全米YOGAアライアンスを駆除するつもりなんでしょう。実際RYT200時間って一般社会でいえば「新入社員が200時間の研修でプロ扱いします」って事ですよね?毎日8時間の研修で一ヶ月半程度、500時間でも三ヶ月程度、この辺りのヒヨコちゃんたちって確かに未熟だけど希望にあふれたりしているからなぁ、実際に生活出来るレベルで仕事になる人がどの程度なのかは知りませんが『資格商売』って儲かりそうですね。(悪因縁も造っていそうだけど)
 でもなんかYCBの認証が世間に広がったとしても、平板というか薄っぺらい世界になりそうだなぁとは思いますよ。ハタ・ヨーガのテクニックは密教の世界で磨かれたものであり、秘伝といわれるものはそんなに簡単に教えてもらえないものだから。きっと将来的には公的機関の認証と私塾的な専門機関というような棲み分けがなされるのではないかと思います。



(※1)ヨーガ共通プロトコール(Common Yoga Protocol)の概要
1.始まりのマントラ
2.準備運動(首、肩、体幹、膝 etc)
3.アーサナ
4.浄化法(クリヤ・カパラバティ)
5.プラーナーヤーマ
6.瞑想(ディヤーナ)
7.誓い・心の方向付け(サンカルパ)
8.終わりのマントラ(世界の存在全体に向けたもの)

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等の対象別プロトコールも見ることが出来ます。


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