見出し画像

AI導入/DXの勝負は、キックオフ前に決まっている

AIを導入しないと世の流れに取り残されるのでは?」と不安を抱えたり、「早急にDXを推進してデジタルトランスフォームを完了すべし」と役員からミッションを課されて悩む方は多いのではないでしょうか。

日本式DXがレガシーシステムの排除や業務改善の一貫でのデジタル導入に留まり、2年ほど前に市場を席巻したRPAブームと似た「日本式ガラパゴスのAI導入/DX」の様相を呈していることは、経産省が2020年12月28日に発表した『DXレポート2(中間取りまとめ)』レポートからも読み取ることができます。

画像1

https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-1.pdf

もちろん、RPAもテクノロジーとして業務効率化を手助けすることは間違いありません。しかし、対象業務選定及び保守運用設計を適切に考えて導入しないと、思ったような効果が出ずに「ROIが合わない」と判定され、せっかく導入したRPAが活用されずに塩漬け状態に陥る危険性があります。

肝いりAI導入/DXプロジェクトが失敗する理由

同様の事象は、AI導入/DXプロジェクトでも起こります。

最優先課題としてAI導入/DXプロジェクトを謳ってスタートしたものの、途中で「ROIが合わないのではないか」「もっと重要なことがあるのではないか」とプロジェクトがストップしてしまう、スローダウンしてしまうというケースが見られます。

社内の巻き込み方や技術選択の誤り……というプロジェクト途中での問題もありますが、よくあるのは「最初の課題設定が間違っていた」パターンです。

実は始まった時から、失敗が決まっていた…と考えると恐ろしい話です。せっかく予算や投資をして始めたプロジェクトがデス・ロードを歩まないために必要なことはなんでしょうか。

AIやデータ分析を活用し、効果を出す4つのポイント

「想定と違い、効果がでなかった」という悲劇を生まないために、検討すべきポイントは4つです。

1. 組織ビジョンやありたい姿から、解決すべき課題をリストアップする
2. 技術的にアプローチができ、かつビジネス上重要な課題を選ぶ
3. データでの検証を通じて有効性を確認する
4. 有効なシステムを開発し導入する

「当たり前では?」と感じるかもしれません。しかし、市場が加熱し「このテクノロジーを使っていない企業は遅れている」というメッセージが蔓延すると、「解決すべき課題とそれに沿ったテクノロジーの選定」という本来の趣旨から外れた形でプロジェクトが進みます。

冒頭に記載したような「AIを導入しないと世の流れに取り残されるのでは?」という焦りから形だけの導入が進んだり、「早急にDXを推進してデジタルトランスフォームを完了すべし」というトップダウン圧力から「導入ありき」の検討がスタートする構造です。思い当たる方も多いのではないでしょうか。

しかし、4つのポイントで示したように、「どうありたいか」の姿と、解決しなくてはならない課題を洗い出し、ビジネス的に価値のある課題にテクノロジーを活用する基本の姿勢が重要です。この目的を忘れて進むと、プロジェクトには「不穏な空気」が流れます。

・課題を解決しても事業インパクトが小さく、投資に見合わない
・テクノロジーを活用できておらず、何を解決したいのかわからない
・技術的実現性が薄いため実用に結びつかず、時間ばかりが過ぎていく

この状態が続くとプロジェクトが途中でストップしてしまうか、運用にたどり着けても「投資に見合うものではなく、無駄だった」と判断される可能性が高くなります。

成果に繋がるプロジェクトにするために必要なこと

どうしたら4つのポイントを抑えながら、ビジネス推進ができるのでしょうか。

■ 4つのポイント
1. ビジョンやありたい姿から、解決すべき課題をリストアップする
2. 技術的にアプローチができ、かつビジネス上重要な課題を選ぶ
3. データでの検証を通じて有効性を確認する
4. 有効なシステムを開発し導入する

ありがちな失敗は「専門家を入れれば、解決するはずだ」と短絡的に専門人材の採用のみに注力することです。「データの専門家」はすべてを解決する魔法の杖でないことは、前回の記事でも触れました。AI/データの専門人材の知見が生きるように、チームでプロジェクトを進める必要があります

■4つの役割
1.  事業やビジネスを理解している事業マネージャー
2.  ビジネスとデータサイエンスのブリッジ役であるデータストラテジスト
3.  モデル構築や精度検証ができるデータサイエンティスト
4.  顧客のカスタマージャーニーや社内の業務フローを設計できるUXデザイナー

その点に留意しながら、それぞれのポイント、特に1と2について見て行きたいと思います(3と4も当然重要なポイントがありますが、1と2が握れていれば、3と4はスムーズに進められることが多いため、今回の記事では割愛します)

1. ビジョンやありたい姿から、解決すべき課題をリストアップする

本領域は、AIベンダーやデータサイエンティストが必ずしも得意なわけではありません。

「事業/組織をどうしたいのか?」というビジョン&事業や業界に知見を持った人が詳しいことが圧倒的多数です。

特定の「手法」の専門家やベンダーは、得意領域の手法が最適ではなくても、その手法に合う課題を作り出してしまうリスクもあります。これは特にツールベンダーなど、特定のソリューションを担いでいる場合に顕著であり、想像しやすいのではないでしょうか。

重要なのは、事業と技術をかけ合わせながら「課題を能動的に設定すること」です。課題がクリアになっていなくてもよく、ブレストしながら要件定義まで落とし込むことが目的です。そのため、データやAIの専門家だけでなく、顧客や社内ステークホルダーの知見を絡めることが重要になります。

特定事業(市場)領域 × 専門領域に強味を持つ専門家がいて、チームに組込めた場合は、「ビジョン&事業や業界に知見を持った人」が内部調整などを含めてリードすることで、この部分の推進が劇的に進む可能性があります。

2. 技術的にアプローチができ、かつビジネス上重要な課題を選ぶ

本領域は技術的なジャッジが必要なので、AI/データ分析の知見及び、エンジニアリングの専門性がある人が必要です。ただし、分析対象とするデータや技術領域、難易度によって聞くべき専門家は異なります。

例えば「蓄積された自社データを活用して、新規事業モデルを創出したい」というお題があった場合に、「データはあるから、課題を見つければよい」といった単純な話にはなりません。少なくとも、以下の観点で「どんな専門性を持った人材が必要か」を考えなくてはなりません。

・扱うデータの種別
  (ex.) 画像解析か、テキスト解析か
・技術難易度
  (ex.) 古典的手法の活用でよいのか、深層学習モデルから構築する必要性があるか
・専門家のパーソナリティ
  (ex.) 技術的、専門的な判断が得意なのか、課題解決へのアプローチ法などの発想が得意なのか、ビジネスサイドとの対話がどの程度得意か
・該当業界、テーマの経験
  (ex.) 特定業界の需要予測や異常検知、画像による不良品診断など、あるテーマでは同様の経験者がいることがある

最も難易度が高いのは、この2のフェーズです。なぜなら、事業理解及び、技術への一定の知識や専門性がある人物がいないと「どの専門家を選ぶか、どの技術を選んで、事業に装着するか」のブリッジができないからです。

逆に、技術的に実現可能かつビジネス上意味がある課題が選べていれば、3と4は検証フェーズのため、データ分析やAIモデル構築などで専門家が活躍する場面です。

1で抽出した課題に対して、2で選定した手法を当てはめ、実際にデータを取得し精度や技術課題を検証し、有効性が確認ができます。検討結果と同様に効果がでるようであれば、実行内容をシステム要件に落として開発を進めることで、実際に導入に繋げることができます。

キックオフ前にプロジェクトの運命は決まっている

4つのポイントのうち1と2はプロジェクトにおける上流部分で、実際にプロジェクトが開始で運用されるフェーズは3以降。まさに「キックオフ前に勝負が決まっている」状態が生まれます。

1と2では、事業との親和性及びビジネスインパクトを持った課題設計及び、そこに紐づく技術選定という難易度の高い役回りが求められます。

もちろん、この2つを1人が担う必要はありませんが、この視点を持ってプロジェクト設計した上で人材を選定しないと、「事業から課題を設定し、フィットする技術や手法を考える」という1~3フェーズのすべてをAIやデータ分析の専門家に期待し、答えられないという悪循環を生みます。

『AIやデータ分析を活用し、効果を出す4つのポイント』として羅列すると「当たり前」に見えたことができていないままスタートし、消えていくプロジェクトは数多くあります。再度ポイントを踏まえ、実行前に正しく検討がされたのか?を振り返ることは重要です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?