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AIやデータの専門家だけではAI導入/DXはできない

データ活用が叫ばれる中で、データサイエンティストやデータエンジニアを始めとした人材はどの企業も欲しがるスター職種となっています。グローバルでもこの傾向は強く、GoogleやAmazonを始めとしたTech Giantを競争相手に、自社に専門人材を採用することは困難を極めます。

また、人材競争に打ち勝ち自社に専門人材を雇えても、それだけで自社のデータ活用や事業推進が爆発的に加速するか?というと簡単ではありません。実際、せっかく採用できたデータサイエンティストが定着せずに離職してしまったり、推進の原動力にならずに期待した結果が出ずに終わる事例は多いです。

なぜ、せっかく採用した人材を活かせずに終わってしまうのでしょうか?理由は、AI導入/DXを成功させるには適切なチームが必要で、個人や個別の職種をただ採用しても意味がないからです。

データサイエンティスト採用後にデータ活用が進まない3つの理由

◎DX、AI導入、データ分析を自社で推進するためにデータサイエンティストを採用したが上手くいっていない
◎採用後の定着率が悪く、採用コストばかりが積みあがって成果が見えない
◎データサイエンティストを数名採用したが、現場からも経営層からも「人材が足りない」という声ばかり聞こえてくる

このような悩みは各所で聞きます。せっかく採用した人材が活躍できていない時、大きく3つの理由が考えられます。

1.業務がデータサイエンティストの興味関心に合っていない
データサイエンティスト本人は「より高度なモデル開発を含めた技術を磨きたい」と考えていたが、採用側は「ビジネスとのブリッジ役」を期待していた。あるいは、ビジネス上必要なデータ・グラフを作りだすためのデータ生成器になってしまった。

2.人材要件や採用時に伝えられた役割と実態が乖離していた
DXやAIというバズワードが先行し、データサイエンティストに任せる職能が明確になっておらず、当初の期待と実際の業務の不一致が起こり、人材要件と本人スキルがフィットしなかった。例えば、機械学習モデルが構築できるエンジニアが、ひたすらSQLとクロス集計を続けるだけになってしまった。

3.ツールやプロダクト先行で、データが後付けになる
AIベンダーやツールベンダーの場合、自社プロダクトを活用する優先度があがってしまい、本来の事業課題解決に繋がらない。自社のプロダクトや得意領域から、課題を「発見して」しまったり、製品が魅力的、よさそうだからという理由で導入してしまい「製品に合わせた解決策」をアウトプットしてしまう。

もちろん、採用された本人の能力不足やカルチャーとの不一致といった「そもそものミスマッチ」の可能性はありますが、採用した人材が活躍できない場合、多くの場合は「その人が活躍できる場や体制がそもそも出来上がっていない」ことが原因です。

データサイエンティスト1人に全てを期待しない

例えば、体制構築も含めて「どんなチームをつくるのか?」も任せたい場合は、データサイエンス分野の能力以外にチームビルディングの経験や興味を持った人材を取らなくてはなりません。

しかし、多くの場合は、異なる複数のミッションを「データサイエンティストの採用」という1つの要件にまとめてしまっており、そのせいで「興味関心がわかない業務」や「活躍のできない職場」を生み出しています

事例:デジタル庁の募集要項

デジタル庁が4月から民間人材を募集するというニュースに合わせ、募集要綱が発表されましたが、この求人がその際たるものです。本来チームで出すべきアウトプットを1人の人に込めており、とても1名でカバーできるような内容ではありません(その他にも色々気になる点はありますが、ここでは割愛します汗)

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"具体的な業務内容は以下の通りです。
・住民中心の住民データモデルの策定
 - 住民基本情報の整理
 - データ利活用の際の制約条件の整理
 - 既存データ・既存データ標準とのコンバージョンプランの検討
 - 住基システムの移行計画の検討
・ベースレジストリの構成の検討、実施計画の策定及びマネジメント
 - ベースレジストリの実現方式の検討
 - ベースレジストリの更新等のプロセスの整理
 - データ標準の検討と実装支援
・ベースレジストリ整備に当たっての関係者との調整"

デジタル庁の「プロダクトマネージャー(シニアデータスペシャリスト)」募集要項 https://recruitment.digital.go.jp/position/0002

しかし、デジタル庁に限らず「スペシャリストを含んだチームで設計するべき事柄」を個人に期待する構造になっている会社は非常に多いです

その結果、採用要件と実務のギャップが生まれてしまい、そのギャップからせっかく採用した専門人材が「本来フォーカスするべき専門的な業務」に注力できずに流出する悪循環を生みます。

AI導入の成功に必要なチーム設計と4つの役割

「1人に全てを負わせない」という当たり前のことを記載しましたが、実際にAI導入を成功させるためにはどのような役割や人材が必要なのでしょうか?

 1. 事業やビジネスを理解している事業マネージャー
 2. ビジネスとデータサイエンスのブリッジ役であるデータストラテジスト
 3. モデル構築や精度検証ができるデータサイエンティスト
 4. 顧客のカスタマージャーニーや社内の業務フローを設計できるUXデザイナー

2個程度兼務できる人材はいるかもしれませんが、1~4の全てを担える人材はほぼいません。4つのポジションの詳細は以下の記事で詳しく記載しています。

必要なポジションを書き出せば、それぞれが独立した専門性を持つ人材要件であるとわかります。しかし、求人側も「自社にどんな人がどれだけ必要なのか?」が不透明なためにふわっとした包括性の高い求人を出し、失敗する傾向があります。

先に紹介したデジタル庁の求人はまさしく典型です(失敗すると決まったわけではありませんが…)

どんな課題を解決し、データ活用をすべきか?をはっきりさせる

AIやデータ分析の専門家を採用すれば全てが解決するわけではありません。自社にある課題を「どうデータを使って解決するのか?」を、事業/ビジネスに詳しい人が、AI/データ分析の専門家と対話しながらリードする必要があります。

AIやデータ分析は高度なテクノロジーであり、かつ必要な技術ですが、手段のひとつでしかなく、専門家を連れてくれば魔法のように何かすごい技術や頭脳で全てが解決されるものではありません。この点をきちんを考えないと「個人」の能力に頼り、「個人」を孤立させてしまいます。

適切な粒度のミッションとチームを設計し、どうデータを用いて解決するべきか?をデータサイエンティストと共に導いていくことで、高度専門人材を入れることが強力な武器になるのです。

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