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データ分析で「倒産しない出店先」を見つけることは可能か?  膨大な候補物件から最適な出店先を選定する「出店戦略支援AI」開発ヒストリー

感染症の流行以降、各業界の大手企業の倒産や店舗縮小のニュースが多く報じられています。特に状況が深刻と言われている「飲食業の倒産」は、2020年1〜10月の累計で730件に上り、これは前年同期比9.2%増※の数字です。このままのペースが続けば、年間を通した飲食業の倒産数は過去最大になる見込みとされています。(※東京商工リサーチ「2020年1-10月「飲食業の倒産動向」調査」)

一方で、店舗の倒産や破綻は、以前から日々起きていました。
気に入っていたあのレストランが、次に行った時にはもう閉店している…という経験は皆さんあるはず。飲食業は他の産業と比較すると、開業率と廃業率の両方が高く、入れ替わりが激しい業界と言われています。

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各業種の開業率と廃業率
「宿泊業・飲食サービス業」は開業率と廃業率が高く、入れ替わりが激しい
(中小企業庁「業種別開廃業率の分布状況(2017年度)」)

にぎわっているように見えたお店が、なぜ破綻してしまうのか?理由の一つが「出店先」にあります。

今回のnoteでは、ビッグデータ分析サービスを展開するスタートアップDATAFLUCTが考えた「倒産しない出店先をAIで探す方法」と、実際のプロダクト開発までの道のりをご紹介します。

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プロフィール
・株式会社DATAFLUCT 代表取締役 久米村隼人 
・DATAFLUCT marketing. プロダクトオーナー 西山一平

飲食・小売り店ビジネスにおける「新規出店」の難しさに着目

久米村:
 JAXA(宇宙航空研究開発機構)の職員になったとき、「衛星データを使って何かやりたい」という思いがありました。そのときは“何か”がまだ決まっていなかったのですが、「不動産業に衛星データを使えたらいいんじゃないか」という声をよく耳にしました。それで「不動産業に衛星データを使っていくって、どんなことだろう」と思って調べると、“商圏分析”というテーマがありました。

いろいろな飲食店のオーナーにヒアリングする機会を頂き、みなさんに共通していたのが「新規出店が非常に難しい」という悩み。どういうふうに出店先を決めるのかと尋ねてみると、「なんとなく」「新橋が好きだから」「下北沢が人気だから」という“勘”に頼った決め方をしている方が多かった。人通りなどは確認しましたか?と聞くと「ここはよく知っている土地だから大丈夫」と。

ところが、いざ出店したら思ったほど客が来ない。立地はいいけれど、ちょっと奥まったところにあって見つけにくいとか、意外と人通りが少なかったとか。勘による出店では、そうした結果に陥りやすいのです。

店舗型ビジネスでは、賃料に対して3倍から4倍くらいの売り上げがないと黒字にならないと言われています。賃料を売り上げの25〜33%に抑えないと、ビジネスとして成り立たないということです。

そういったことをリサーチした結果、「しっかりデータを分析してから出店できれば、多くの店舗はつぶれなくて済むはずだ」と考えました。飲食店は入れ替わりが非常に激しい。もちろん飲食店だけではなく、あらゆる店舗ビジネスが同じ課題を抱えています。出店検討には、データサイエンスが大きく貢献できる可能性がある。そう感じて、最新のデータを活用し売り上げを予測する商圏分析サービス「DATAFLUCT marketing.」の開発を始めました。


「正解データなし」異例の開発スタートから、高精度の売上推定を実現するまで

西山:
まず「DATAFLUCT marketing.」を一言で説明すると、ビッグデータ分析により、自社の業種や業態にあった出店先を、一目で見つけられるサービスです。こうしたエリアのポテンシャルの分析は「商圏分析」と呼ばれています。

既存の商圏分析サービスの多くは、国勢調査などのオープンデータを利用していました。こうしたデータは更新性の面でハンデがあり、例えば国勢調査は5年に1回の更新で、調査結果が発表されるまでに1年ほどかかります。

一方、当社ではモバイル空間統計データという株式会社NTTドコモの商圏データを採用しています。もちろん全体の統計データとして提供されるので個人は特定できませんが、リアルタイムのデータなので「特定の時間帯にどんな属性の人が、どれくらいいるか」といった詳細がわかります。社会情勢や流行の変化などを受けた、最新の街のにぎわいを把握することができます。

久米村:
最新のデータを基に、このエリアには、この時間帯、どんな人がどれだけいるのか」を、簡単な操作でマップ上に表示できるということです。ベーシックなものに思えますが、既存の商圏分析サービスにはなかった取り組みです。

参考画面 ヒートマップ

サービス画面一例
人流データをヒートマップ化し「いつどこに、どのような人がどれくらいいるのか」を可視化。出店候補地となる物件も重ねて表示します

西山:
最新のデータを活用した商圏分析、というのは飲食店や小売店からのニーズが非常に高いサービスだったのですが、当社としてもこれまでにない取り組みだったので、データ分析のベースとなる「正解データ」がない状態での開発スタートとなりました。

通常は、データ分析によってある数値を推定した後に、実際はどうなのか?という正解データと照らし合わせることで分析の精度を上げていくのですが、今回の開発の場合は、その正解データとなる「店舗の売上」のデータがない状態だったのです。

サービスの根幹にかかわるので詳細はお客様にしかお伝えできないのですが、開発チームで試行錯誤し、既存のデータをうまく組み合わせることで、所在地や店舗の席数などを把握できれば、外部からその店舗の売上を推定できるという仕組みを作り上げました。

分析の仕組み

分析の仕組み
使うごとにデータが蓄積され、予測の精度が向上していく

また、ローンチ後にお客様にサービスを使っていただく中で、本プロダクトで推定したお客様の店舗の売上と、実際の売上を比較することができるようになりました。幅広い業種のお客様を獲得してこれを繰り返すことで、サービスの精度がさらに向上していくサイクルになっています。


第2の障壁 「分析結果」だけでは社内を説得できない!実際に経営に活用できるデータ分析であるための工夫

西山:
推定の精度が向上しても、もう一つ大きな問題がありました。これは実際にサービスを導入いただいたお客様からの声なのですが、「このエリアが新規出店に適しているという分析結果が出ても、それだけでは社内を説得できない」という問題です。

当社のプロダクトは、「実際のビジネスに活かせるデータ分析」を目指して開発しています。分析して終了ではなく、その結果を実際の経営や業務に活用していただきたい。そこで、お客様とのミーティングの中で「社内を説得するために必要な情報は何か?」をヒアリングし、追加で開発を実施。

「この新規出店候補地に似た属性を持つ、既存店舗の売上や客層」を併せて表示する機能を搭載し、この物件に出店すれば、既存店舗Aと似たような経営ができそうだというイメージを持っていただけるようにしました。

また、実際に使えるプロダクトであるためには、「データ分析に慣れていない方でも直感的に使えるUIであること」も重要です。当社では、過去のサービス開発でもこの点を重視してきたので、デザインについての知見がありました。飲食や小売はまだまだデータ活用が進んでいない業界といえますが、こうしたお客様からも操作性の高さを評価いただいています。

参考画面 動作シーン

サービス操作一例
データ活用が初めての方でも直感的に使えるデザインを目指しました

久米村:
さらにお客様の出店先選びをサポートする機能として、業態や規模の情報を基におすすめエリアをマップ上で表示する「レコメンド機能」も搭載しています。これまでの勘や経験則による出店では、自分の土地勘のある地域しか候補地に挙がらないという課題がありますが、「DATAFLUCT marketing.」をお使いいただくことで、これまでマークしていなかったエリアの出店候補地も見つけられます。


「競合店の密度の表示」もカバーし、より効率的な出店計画を可能に

西山:
既にローンチし、お客様にご利用いただいているサービスですが、より進んだ商圏分析を目指して常にアップデートを検討しています。

直近では、競合店の商圏もマップ上で見ることができる機能を追加予定です。競合店の商圏に重なっていない、かつ人口・人流の多い場所を視覚的に見つけることができ、“どこに新規出店すれば良いのか、一目でわかるサービス”として、より一層強く店舗ビジネスをサポートできるようになります。実はこのアップデートを機に、サービス名もリニューアルを予定しています。

また、飲食店はその店舗の「味」などでも人気に差が出るため、より精度の高いサービスにするには一歩進んだ予測モデルが必要だとも考えています。

久米村:
活用するデータについても検討を続けています。たとえば、天気は比較的先まで予測ができます。天気予報と人流の関係性を解析できれば、細かいコンバージョンも追えるようになります。こんな天気、こんな人流のときは何人が入店して、何を買ったかが全部紐づけられる。すると未来の売り上げをさらに正確に予測できるようになる。Webベースでの出店シミュレーションを可能にすることで、店舗が「倒産しない」世界をつくりたいと考えています。

将来的にはグルメサイトと連携するなど、活用するデータの幅を広げることで、さらに多くの店舗ビジネスの役に立てるサービスを目指したいと考えています。

暮らしや人の流れが変わり、先の読めないこれからの時代。ビジネスにおいても相次ぐ倒産や破綻など厳しい状況が続いていますが、一方では技術の進歩によって「未来予測」ができるようにもなってきています。

DATAFLUCTは、社会課題をデータサイエンスの力で突破することを目指し、プロダクトの開発を続けています。今後も、開発背景やデータサイエンスにまつわるテーマを随時更新予定です。
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