扉

「パターソン」ジム・ジャームッシュ監督/詩的なアメリカの日常

2016年アメリカ映画。あのジャームッシュ監督作品である。
ジャームッシュ作品は非常にスタイリッシュで、mid 90'sのミニシアターブームに乗っかった人々おしゃれピーポーが一斉に「好きだ!」と唱えてしまうイメージがある。

かくゆう自分もその様子に憧れ「好きだ!」と言っていた。が。
実のところ、その良さがわかっていなかった。
ジャームッシュの良さがわかるようになってきたのはごく最近であり、ただのスタイリッシュな映像作家ではないことを痛感するばかりである。

この映画にも脳みそがザザザッと揺らされた。
こんなにも難しいトピックをを面白い映画に仕上げるのがすごい。
「あージャームッシュは天才だったんだ」と思い知らされた映画であった。

監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:アダム・ドライバー、ゴルシフテ・ファラハニ、永瀬正敏、クリフ・スミス、バリー・シャバカ・ヘンリー
撮影監督:フレデリック・エルムス 美術:マーク・フリードバーグ
音楽:SQÜRL (ジャームッシュ率いるバンド)

あらすじ
ニュージャージー州パターソンに住むバス運転手のパターソン。彼の1日は朝、隣に眠る妻にキスをして始ま理、仕事に向かい、乗務をこなす中で詩を秘密のノートに書きとめていく。帰宅して妻と夕食、愛犬マーヴィンを散歩がてらバーへ立ち寄る。そんな一見変わりのない毎日をユニークな人々との交流と共に描く7日間の物語。−参照:オフィシャルサイト

日常を物語として語る天才

<私は逗子市に住み、毎日2歳児の息子と庭いじりや、家事。時に映像を作る毎日を過ごしている>

と、書くと非常に単調に感じられるだろうが私個人にとっては、毎日がドラマである。もしかしたら多くの皆さんもそうなのではないだろうか。
他者にとってある個人の日常は「単調でつまらない」ものであっても、本人にとって非常にドラマチックだったりする。

この映画はまさしくそんな「単調」な日々の小さな移ろいを丁寧に描くことで「面白いドラマ」として成立させている。その丁寧さ、細やかな移ろいをセリフなしで「わかりやすく」見せる技術。かつ面白い。

なかなかできるものではない。

ドラマとは葛藤である?
「何気ない日常にあるドラマ」という謳い文句で世に出ている映画は非常にたくさんある。

けれど大抵、どこかで殺人やセックス、暴動など「日常」から外れる事件が起きる。脚本の書き方などにも必ず主人公に葛藤を持たせ、「事件」を起こすことが「物語の必要条件」と書いてある。

このパターソンにそれが無い、とは言えないかもしれないが、
主人公の葛藤は明確では無いし、「事件」も主人公がたまたまその日だけ詩を書かなかった、というような、もしかしたら映画を見ている人は気づかないくらいの些細なものだったりする。

Hey. 必要条件って一体なんなんだ。
「教本」とやらは鵜呑みにするもんじゃねーな。と観ながら思っていた。

些細な日常を激情的に描いた作品というと、真っ先に浮かぶのがタルベーラ監督の「ニーチェの馬」。「パターソン」と比べるとさらに何も起きず、とんでもなく些細なことを大事件として見せる、恐ろしく良作な映画である。

「パターソン」はこの「ニーチェの馬」と構成がよく似ており�<些細な日常の変化を事件にする系>がまたもや登場してしまった!という感動があった。同時に、タルベーラ監督が映画撮影にフィルムが使えない今、引退をすると表明したことが肉薄しているのでは無いかと思った。

まあ「ニーチェの馬」についてはまたおいおい…(パターソンはフィルムで撮っていたわけではなさそう)

『パターソン』とは何か
実は、この映画の<主人公の葛藤>は観客に投げられているものでは無いかと仮定する。

『そもそも<パターソン>ってなんなんだよ…』と思った人。
きっとその<葛藤>がこの物語を動かすことになる。

映画ではこの<パターソン>が何者なのか、小出しに出てくる。
まず主人公の名前が<パターソン>であることがあり、
彼の運転するバスが<パターソン>行きで「あれ??」と不安になり、彼が何者なのか気になって仕方がなくなる。

観進めていくと、どうやらパターソンは詩人、ウィリアム・カルロス・ウィリアムの詩集のタイトルであり、同じく詩人ギンズバーグの出身地でもあるらしい。そして、主人公と街の名前も同名である。

最後に「パターソン」の重要な位置付けを永瀬正敏が演じる喪服を来た日本人が語る。そこでこの映画の最も重要なことが明確になる。

当たり前だ。タイトルが「パターソン」なのだから、この映画は「パターソン」についてなのである。それをジャームッシュは2時間かけて表現し、かなり勝負をしていると思う。

ちなみに劇中に登場するのははロン・パジェットというアメリカ詩人によるもの。ピューリッツァ賞を取ったり子供に詩を教えたりしており、アメリカでは注目されいる作家らしい。

個人的には、このマッチについて書いている詩にグッと来た。
詩が好きな人はもしかしたら作中の詩にグッと来て、ギンズバーグやらWCWの引用などに興奮できるのでは無いだろうか。

かくいう自分もその一人である。
(ギンズバーグやWCWの詩について語りたいが、それもまたおいおい)

「パターソン」。なかなかに素晴らしい映画であった。

ちなみに私は心の中で、主人公をカイロ・レンと呼んでいる。

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