石の微笑

「石の微笑」クロード・シャブロル監督

La Demoiselle d'honneur by Claude Chabrol

2004年に公開されたフランス映画。フランス映画、というと小賢しくてエロいというイメージを勝手に持っていたが、この作品はテンポよく謎と恐怖が登場し、終始ゾクゾクしながら楽しめた。

ここ最近見た作品の中でも、世界観、構成、脚本、ともに群を抜いて面白かった。

監督 クロード・シャブロル 
出演:ブノワ・マジメル、ローラ・スメット、オーロール・クレマン 
脚本 クロード・シャブロル 、ピエール・レシア                         
原作 ルース・レンデル    
音楽 マチュー・シャブロル                                
撮影 エドゥアルド・セラ
上映時間 111分   製作国 フランス&ドイツ

物語のあらすじは割愛するが、伏線を張り巡らせ、謎が謎を呼ぶ構成には唸らずにはいられなかった。この作品を細かく鑑賞をする方が、脚本の書き方などの本を読むより100倍速いのでは無いかとも思った。

一つだけ釈然としないのが、タイトルにもある「石の微笑」の「石」が何なのかよくわからなかったこと。この石が登場するたびに誰かが殴られたり、危険な情事に巻き込まれたり、何か恐ろしいことが起きるのではないかとハラハラするのだが…実はこの石は表層的な怖さではなく、もっと深い何かを意味しているのかも?と最後に気づく。

いや、でも全く意味なんてないのかもしれない。見終わって数日経っているが、未だによくわからない。

2時間を通してなんとも奇妙な薄気味悪さが漂っているこの作品。この恐怖感はほぼヒロイン、センタを演じるローラ・スメット氏の怪演によるのではないかと思う。写真で見ると美しいのだけど、映画の中で初めて登場した時の彼女はとても怖い。

「こんな変な女がヒロインのはずがない」と思うのだけど、やはりヒロイン。怖いことをするわけでも、安い映画にありがちな安い怖い演技をするわけでないのに存在が気色悪い。と同時に魅力的でもあるので、違和感をずっと抱いたまま映画を見ることになる。

脚本が素晴らしいということももちろんあるのだが、彼女がヒロインを演じたことがこの映画を一層素晴らしいものにしているのでは無いかと思った。

主人公の…気弱でアホそうな…ブノワ・マジメル氏演じるフィリップ。気弱でアホいお陰でセンタの怖さが引き立っているのだとは思いつつ、演技の素晴らしさよりも口先の尻軽男っぷりがずっと気になって仕方なかった。

ブノワ・マジメル氏は「ピアニスト」でカンヌ男優賞を受賞したり、数々の作品に登場し、シャブロル監督の常連らしい。恐らくいい役者なのだと思うが、その良さよりも気になることが多く、ローラ・スメットの影に潜んでしまった気もする。

ただ、うろ覚えだが「肉屋」でも男性陣が気弱でアホそうだった気もするので監督がそういう男性を描くのが得意なのかもしれない。よく考えたら、こういう心理ホラー系は主人公男子が気弱でアホなばかりに、怖い女にとっ捕まるという図式が多い気もするので、今回はその例に当てはまっただけかもしれない。

そして最後に、個人的に一番グサッと刺さったのが「フランスのヒッチコック」と呼ばれているシャブロル監督の素晴らしさだ。

ダメさを露呈するようで恥ずかしいけれど私はヒッチコック作品は一つも見ていない。ただ「「石の微笑」の冒頭からの不気味な雰囲気、どんどん恐ろしい世界に引き込む展開、ザザザッと伏線を回収するところを見ると、シャブロル監督作品は非常に独特な世界観と小気味良いテンポが特徴なのではないかと想像する。

約2時間、非常に奇妙な空間に投じられる快感があった。「シャブロル監督すげー!」と「怖い!」というのを交互に味わった。楽しかった。

クロード・シャブロル監督作品を見るのは「肉屋」に続き二作目。まだ二作目なので断定できないが、クロード・シャブロル監督は個人的に興奮してしまうほど良い監督と感じている。

アンドレ・パザン在籍時の「カイエ・ドゥ・シネマ誌」で映画批評を書いていたということで、いわゆるヌーヴェル・バーグ運動の一人(と言えばいいのか?)らしい。

ただゴダールやトリュフォー、ロメールとは違い、エンタテイメント性に溢れている。ブニュエル的で、90年代中盤のウディ・アレン的な。そんなものを感じる。

特に「この監督は!」と興奮したのは、フィリップが車の中で電話をしているところの背景に、なぜか微動だにしないイタリアレストラン店主がいたり、最後の方で公園でうんこを踏んで足を拭く通行人がいたりするふざけた演出。前述した「石の意味」も、もしかしたら本当になくて、監督のふざけた謎かけだったのかも…と思ったりもする。

特に映画祭で何かを受賞した記録は見つけてないけれど、一部の人々の間から評価が高いようだ。ちなみに私は確か「映画長話−蓮實重彦氏、黒沢清監督、青山真治監督」で褒められているのを見てこの作品を知った。

シャブロル監督作品、そしてヒッチコックも見るべし。と気づいた貴重な作品だった。観て本当に良かった。

この作品から個人的に学んだこと…
キャスティングが命。エキセントリックな役にエキセントリックな芝居をさせない方がエキセントリックになる。


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