粉雪

たとえ一生を費やしても
僕は君の全てなど知ることはないだろう
君の中に射精するたび更に飢えていくような時代が終わっても
その笑顔の奥にある闇に
手が届くことはない
ほんの指先で触れることも叶わないまま
目元の皴からも目が離せない
美しく年を重ねてゆく君に
そんな上品な真似はできない僕は
醜く白髪を増やしていくだけ
君は粉雪に似ている
アスファルトに吸い取られて積もる力を持たず
でも街中の人間に笑顔で手をかざしながら
空を見上げさせる
そんな力を持っている
現われては消えまた現れては消え去る
儚くも美しいもの
今年は雪が降るかしら
楽しげな顔で君が囁く
もう降っているよ
僕の心の中には
美人薄命とかそんなまじないみたいなものではなく
君が僕より先に逝ってしまうことが
何となくわかるんだ
今にも燃え尽きてしまいそうな蝋燭を
僕は必死で吹きつける北風から守る
まだ早い
まだ早すぎるだろう
君を攫っていきそうなものは
この世にもあの世にも多すぎる
僕は手にしたこともない剣で
それをばさばさと切り倒してゆく
君を守るためなら僕は脆弱な戦士になる
誰かを守る力を持っている人間なんて
この世界にどれくらいいるだろう
それでもやらなければいけないんだ
はらはら舞い落ちる粉雪が
永遠に最も遠いとしても
醜く老いさらばえていく戦士は
最後の呼吸まで剣を振り続ける
もしも君の中に泥水が流れていたとしても
それを飲む覚悟はとっくにできているのだから

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?