祈りの木

木を探している
なるべく太い枝を持った木を
手には麻縄と小さめの椅子を持っている
この広大な公園には人が少ない
成功する確率は高い
こんな出で立ちでうろうろと歩き回っていても
誰にも咎められないのだ
見つけた
丁度いい枝ぶりの大木
お前が私の死か
少しだけ手伝っておくれ
私の骸が片付いたら
お前は何事もなかったように
また季節を巡るのだから
美しい木だ
こんな使用方法をするには忍びない
幹に抱きついてみた
とても腕が回らない
お前は何歳なんだい
いつからここで神々の吹かせる風に
たなびいているんだい
ざあっと強い風が木の葉を揺らして
何か答えてくれたような気がした
お前はどうしてこんな孤独に耐えられるんだい
私には無理だった
もう疲れたんだ
朝目覚める度に首をかっ切りたくなるんだ
だからもう醒めない眠りに連れてっておくれ
幹に抱きついたまましばらく耳を澄ましていた
心臓の鼓動が聞こえた気がした
生きてるんだね
そしてこれからもずっと生きるんだね
私はもう終わりにするよ
話を聞いてくれてありがとう
一番太い枝に麻縄を結ぶ
椅子の上に立ち縄を首にかけた
ごめんねありがとう
私の死になってくれて
生まれ変わったら木になりたいな
お前の隣に小さな芽を出して
少しずつ逞しく育って行くんだ
そうしたら寂しくないしね
ほんの少しだけ待っててくれるかい
また強い風が吹いて
枝ごとわあわあ揺れた
それがお前の答えか
少し笑って葉っぱを一枚千切ると
それを握りしめた
お前をどうか忘れませんように
祈りの台詞を唱えてから
椅子を思い切り蹴った

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