最後の晩餐

最高級のワインをぶちまけたのは
あなたではなく私だった
せっかくのご馳走たちが紫色に染まる
もうやっていけない
全部分かっててこんな馬鹿げた晩餐を開いた
最後の最後に愛されてる妻をやってみたかったから
付き合って初めて寝た時
私はこの人とするために生まれてきたんじゃないかと思う位
体の相性が良かった
あなたのほうも同意見だったらしく
あんなに無我夢中になってる男の姿を初めて見た
ねえあのままセックスばっかりしてればよかったのかな
私と家庭を持ってからあなたはみるみる出世して
周囲から私はあげまんと呼ばれた
帰りの時間はどんどん遅くなっていったけど
たまの休みの日にはちょっと普通の人が泊まれないような
温泉に連れて行ってくれたりした
まるで贖罪のように
私はあなたが仕事ばっかりしてても平気だったのに
やりがいのある事に打ち込めてるならそれでよかったのに
なんで無理して大切にしようとするの
愛してるよ
今の僕があるのは全部君のおかげだ
違うでしょ
あなたが実力で勝ち取ったものよ
それを私のせいにしないでよ
罪滅ぼしみたいなことをしないで
好きに生きてよ
だって愛してた
時間は決して巻き戻せない
人は今を懸命に生きる他ない
目の前に浮かんだいくつかの選択肢
どうしてその中から最悪なものを選び取ってしまったのか
あなたの帰りを何時間も待った
神戸牛のステーキ比内地鶏の丸焼きトリュフたっぷりのスパゲティ
それにあなたが誕生日にくれた30万のワイン
どうしたのこのご馳走
日付が回る直前に帰って来たあなたは
驚きと喜びで素直に笑った
この笑顔だけは変わらない
付き合っていてまだ貧乏で
ろくに具の入ってないカレーを
美味しそうに食べてくれた時と同じ顔
何の不満もないはずなのにね
華奢なワイングラスは手を触れずとも割れることがある
目に見えない小さなヒビが蓄積されて
ある瞬間突然爆発するように粉々になる
私は今夜が寿命のワイングラス
後悔はない
今まで沢山の美味しい思い出に酔ってきたから
別れを告げてもあなたには理解できないだろう
だってずっと一緒にいたかったのは
私も同じだから
お飾りのご馳走がこの馬鹿げた舞台の幕が下りるのを待っている
食べようか
最後に見せる笑顔にしては
上出来だったんじゃないかな

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