ヒビ

小さな小さなひび割れが
時間をかけて広がってゆき
いずれ粉々になるのなら
いっそ今のうちに壊してしまいましょうか
大切にしてたものはことごとく亡くしてきたから
何かを特別扱いするのもうやめた
なのにどうして優しくするの
私の心を融かそうとするの
やっとのことで手に入れた地球上には無い頑丈な鉱物で
固く閉じ込めた柔らかな願いを
引っ張り出そうとするのはよしてよ
無礼な男を蹴り飛ばせるのが
本当に強いって意味じゃない
私がどれだけか弱い生きものか
知っているのは世界中で私だけにして
なんでグラスなんかプレゼントしちゃったんだろう
何気なく入ったガラス工芸のお店で
目が合っちゃったの
これで美味しそうにお酒を飲むあなたの顔が
鮮明に浮かんできて
お財布の中身空っぽになったけど
買わずにはいられなかった
センスいいねと言いながら満天の笑みで
心から喜んでくれたけど
いつの日かそれも粉々に割れる日が来る
そう思うとね
今すぐ窓から投げ捨てたい衝動に駆られるのよ
愛したものが壊れる日を待つくらいなら
いっそこの手で壊してしまいたい
永遠なんてないのだから
でもそれを信じられないほど渇望してるのだから
夢を見させないで
希望を抱かせないで
どんなに孤独だってかまわない
私に光を与えるのだけはやめて
小さな小さなひび割れは
今この瞬間も広がってゆく
私の破壊衝動は
この手から離れて行った愛たちの亡霊