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緊急経済対策

 令和2年4月10日に衆議院で開会された財務金融委員会の審議中継をインターネットで視聴しました。そこで緊急経済対策に関する質疑応答から気になった3点をピックアップし、最後に私の所見を述べたいと思います。

 第1は、緊急経済対策の事業規模についてです。「今回の(緊急)経済対策に含まれる、企業の納税猶予にあてる金額や事業規模は本当に適正なのか」との質問がありました。さらに「納税猶予は手元資金が枯渇する心配のある事業者に対し、資金繰りを支援する即効性のある政策であり賛成だが、事業規模に含めるのはグローバル基準と合致しないのではないか。アメリカとヨーロッパも納税猶予を事業規模に含めているものの、どこまでグローバル基準となっているのかは疑問。加えて、去年策定したした経済対策の執行分も入っており、事業規模を誇示してるようにも見える」といった指摘がなされました。

 この提言に対しては、麻生大臣が次のように答弁をしました。「2008年のリーマン危機と1997年の通貨危機の際には、社会保障の支援や納税延期を行わなかった。しかし今回、コロナウイルス危機に対しては、各国が多額な経済対策を実行する予定である。例えば、イギリスで300億ポンド、フランスで325億ユーロ、カナダで850億カナダドルといった金額が発表されている。社会保障支援と納税猶予についても各国ともこの事業規模に入れており、日本だけが独自の計算方法を採用しているわけではない」と説明。「企業は納税のために留保していた金額を運転資金に流用でき、さらに手元の資金繰りが増えるので大きな効果が見込める。手元資金が不足すると従業員の解雇にも繋がるので、そうならないよう支援するのが重要だ」と主張しました。

 第2に(緊急経済)対策のスピードについて「規模よりも緊急性、スピードを優先すべき」との提言がありました。「今回の経済対策には世帯や中小企業への給付政策も含まれるが、手続きが煩雑でわかりにくい。補正予算が国会で通っても、5月の連休後に市町村の予算編成があり、夏頃にならないと給付が必要な人々に実際は届かない可能性がある。“緊急” とは名ばかりで、この経済対策は緊急性に乏しく、人命救助に相当する現段階での適切な政策手続きとはいえない。本来ならば、先ごろ成立した令和2年予算を組み替えたほうが早かったのではないか」といった指摘がなされました。

 この提言に対しては、麻生大臣が次のように答弁をしました。「確かに、補正予算の成立は4月末まではかかる。しかし市町村はすでに準備を始めており、同時にスピード感を優先するよう財務省と総務省が要請。その上で、5月中には実行したいと思っている。もしマイナンバーカードなどが普及していれば、もっと早く給付を届けられただろう」と主張しました。

第3に、(緊急経済)対策の財源に関する質疑が行われました。「14.5兆円の国債発行はやむを得ないものの、日本の財政状況は他国と比べると深刻なのではないか」という質問。それに続いて「今回のコロナウイルスの対応のために、例えばドイツは7年ぶりに国債発行をするが、国庫金を保ってきたので問題はない。一方、日本の場合は、もともと財政が緩んでおり、安直に赤字国債発行すると将来、相当に厳しい影響があると覚悟をすべきだ」と強く懸念する発言がありました。

 これに対して麻生大臣は次のように説明しました。「今回のコロナウイルス問題は少ない財源で対応することは難しく、国債発行が必要だと理解している。その増発額は、公共事業が限られているため建設国債を2.3兆円と特例国債(赤字国債)を14.5兆円の予定。 追加国債の発行は財政健全化と逆方向ではあるが、まずは経済の再生を確実にするのが優先だと思っている。もちろん、財政を健全にしておかなければ、イタリアのように財源が限られているため十分な支出ができない状態になりかねない。信頼のおける財政政策を行っていきたい」と主張しました。

最後に、これらの論点について私の意見を述べたいと思います。

    経済対策の事業規模計算に納税猶予や他の社会保障制度を含めるのは、G7先進国でよく使われているやり方です。確かに手元の資金繰りの支援が優先であり即効性があるので、事業規模の発表に入れるのは適切でしょう。しかし、実際に政府がどれだけ支出するのかを監視して、過去の危機支出と比べることも大切だと思います。
       また対策のスピードの重要性に関しては、反対する人は少ないと思います。政府から公務員、市町村まで、できるだけ早く国民を支援したいとの意図を持っているはずです。政策執行のスピードを上げるには、麻生大臣が指摘したように、マイナンバーカードなどの技術の普及が解決策のひとつかもしれません。
       しかし、今回の質疑で最も大切なポイントは、緊急経済対策の財源だと考えます。日本の政府財政は赤字で、債務を国内総生産(GDP)の比率で測ると238%と世界最大です。確かに、ほとんどの債務は国内で保有されていますが、これで安心はできないと思います。国債発行の50%以上を日銀が保有しており、日銀の国債購入力は限界に近いかもしれません。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も来年からポートフォリオのウェイトを変更すると発表し、日本国債券を35%から25%に下げ、外国債券を15%から25%に上げる予定です。日本が国債発行を問題なく継続するには投資機関の需要が必要ですが、もし将来、再び緊急事態が起こり、購入者が減少してしまったら、大変な状況になってしまうかもしれません。


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