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2021年 読んだ古典を振り返る

この記事は【QUMZINEアドベントカレンダー2021】の第3日目(12月3日分)にエントリーしています! 

テーマは「2021年を振り返る」ということなので、私らしさが一番出てくる古典の読書について振り返ろうと思います。古典といっても明確に定義していないので、戦後に書かれた本も混ざったりしていますが、細かいことは気にしません。難しそうな本、くらいの気持ちです。

1月:中根千枝『タテ社会の人間関係』

本書は、現代日本社会がどのような構造で作られているか、古き良き大企業の組織構造についてよく理解できる名著でした。欧米と日本ではどうしてこんなに働き方が違うのか、タテ社会という構造から生まれる必然的な集団の関係性について分析されています。

うちの会社はどうしてこんなに古い体制のままうまくいかないんだろう、といった悩みを持つ方にオススメです。なるほど、だからうまくいかないのか、ということが分かりますが、解決法はあまり分かりません。

3月:チクセントミハイ『フロー体験入門』

本書は、「フロー」という状態、「ゾーンに入る」とも言われるような、すごく集中して仕事などをテキパキこなせる状態について論じています。ここには、人生がどうしたら豊かになるか、幸せになるか、というエッセンスがつまっていると思います。

集中すること、能動的になること、小さなことでも面白がれるような注意力を磨くこと、そういった私が非常に大切に感じていることがまとめられていて、非常に納得度の高い本でした。

4月:ロジェ・カイヨワ『遊びと人間』

本書は、遊びと労働の違いについて考えた本です。遊びというのは誰もが子供のころから自然とやっていることですが、考えれば考えるほど奥が深い。そして遊びの魅力は、先述したフロー状態に入りやすいこと。この遊びをうまく仕事に取り入れることができれば、生産性は大きく向上するでしょう。ゲーミフィケーションと呼ばれるやつです。

また、遊びは多くの文化も生んできました。人間の余暇の過ごし方にも関わるものであり、つまり現代の新規事業ビジネスを支える欲求の根幹でもあるといえます。この遊びというものを「競争」「運」「模擬」「眩暈」の4つに分類して分析した、というのがカイヨワの大胆で素晴らしい着眼点だったと思います。

6月:ピエール・ブルデュー『ディスタンクシオン』

本書は非常に長大かつ難解で、読むのが大変でした。簡単にまとめると「蛙の子は蛙」であり、この構造を変えることは非常に難しいということ。誰もが上流階級へのステップアップを目指しているけれど、そうやって頑張ること自体が庶民階級として留まることに繋がってしまう。文化資本と呼ばれる、親から受け継がれる環境の影響がとても大きいという話。

ただ、こうした固定化された格差構造から脱するための方法についても考えています。文化資本の他に「経済資本」「社会関係資本」も大きな影響力を持つことが分かっています。この「社会関係資本」というのが、SNSの発展した現代社会ではうまく活用できるのではないかと睨んでいます。

7月:J.S.ミル『功利主義』

本書は、「最大多数の最大幸福」という有名な言葉で知られる功利主義について書かれています。幸福とは何か、道徳とは何か、正義とは何か、そういった現代にも通じる人間関係のあるべき姿について論じられています。

結論から言うと、自分を大切にすること、自分を幸せにすることが一番大事だということ。そして自分が幸せになったら、その幸せを自分の周囲にもお裾分けすること。みんながそうすることで最大多数の最大幸福は実現されるとミルは考えました。反論も多くありますが、ある種の理想的な世界の姿を提唱し、一石を投じた価値はとても大きいと思いました。

9月:ジェームズ・G・マーチ『オーガニゼーションズ』

本書は、組織がどのように構成されているか、どのような原理で決断がくだされるか、といった組織論について述べられています。冒頭に紹介した『タテ社会の人間関係』や、昨年読んだC.I.バーナード『経営者の役割』などの内容も包括する、体系的によくまとまった本でした。

昔ながらの工場のような組織から、最近の新規事業創出を目指す組織まで、人間の心理・行動原理などと照らし合わせて何が一番重要なポイントか、どうしてこんな決断がくだされてしまうのか、といった謎を解き明かしていきます。簡単に言うと、人間の認知能力に限界があるせいで合理的な判断ができないのは仕方ないよね、ということ。それを理解したうえでどう行動するのが望ましいか、といったことに想いを巡らせることができます。

11月:マルクス『資本論』

本書は、人々がどうしてお金儲けに邁進してしまうのか、資本とはいったいなんなのか、その謎に迫ります。マルクスといえば社会主義で有名ですが、実際に本書を読んでみると、そんな浅はかな内容ではないことが分かりました。高度経済成長からバブル崩壊と長期デフレ、自然破壊からSDGsの台頭まで全てを網羅する、非常に深い考察がされています。これが1867年に書かれたとはにわか信じられないレベルです。

本書を読むと、資本主義は本当にもう限界を迎えようとしているのだなということを実感します。SNSによって人々の新しいつながりが生まれ、シェアリングエコノミーなど今までとは違った働き方が出てくるようになり、まさにマルクスが唱えている「自由な諸個人のアソシエーションにもとづく社会」が訪れようとしています。この大きな社会の変化を理解する足掛かりとして、とてもよい本だと思いました。

感想

古典と呼ばれる本は、長い歴史による風化を耐え抜いて現代まで残ってきただけあって、読んでみると非常に面白い本が多いと思いました。ただ、書籍としての文章構成、論理展開などはまちまちで、分かりにくい、読みにくい面もあります。いきなり原典を読むのが大変だと感じる人は、分かりやすい解説本もたくさん出版されているので、そういうものから読み始めるのでも十分よいと思います。

最後に、本を読んでいたら娘から問いが来たので紹介します。「どうして本は2冊に分かれると上下巻なの? 下の学年から上の学年にあがるから、下巻が先で上巻が後な気がするよ。前後巻とかの方が分かりやすくない?」

そんなこと言われても分かりません。では、来年も、よい読書ライフを送れますように。

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