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noda
2020年1月2日 22:40
元日をおめでたいものときめたのは、一体何処どこの誰か知らないが、世間がそれに雷同しているうちは新聞社が困るだけである。雑録でも短篇でも小説でもないしは俳句漢詩和歌でも、いやしくも元日の紙上にあらわれる以上は、いくら元日らしい顔をしたって、元日の作でないにきまっている。もっとも師走に想像をたくましくしてはならぬと申し渡された次第でないから、節季に正月らしい振をして何か書いて置けば、年内に餅
2019年12月18日 21:56
ほんの僅かな時でよい生活のわずらいから脱れ静な時をもつ事は――おお 何と云う仕合せだろう昨日 私は 書斎でたった一人ッきりの私の世界で海を越えた遠い国の 心の友の著書を読み今日も亦また 別の友のを読んだが私は私のこころにふれ私の一番懐しい私を彼処にそして 一人はもう此の世を去った過ぎし日に時と処とを越えて見出した ああ その歓び その深い歓び
2019年12月14日 21:13
一顆の檸檬を買い来て、そをもてあそぶ男あり、電車の中にはマントの上に、道行く時は手拭の間に、そを見 そを嗅げば、嬉しさ心に充つ、悲しくも友に離りてひとり 唯ただ独り 我が立つは丸善の洋書棚の前、セザンヌはなく、レンブラントはもち去られ、マチス 心をよろこばさず、独り 唯ひとり、心に浮ぶ楽しみ、秘やかにレモンを探り、色のよき 本を積み重ね、その上に
2019年12月12日 21:56
十一月の夜をこめて 雪はふる 雪はふる黄色なランプの灯の洩れる 私の窗にたづね寄る 雪の子供ら小さな手が玻璃戸を敲く玻璃戸を敲く敲く さうしてそこに息絶える 私は聽く 彼らの歌の 靜謐 靜謐 靜謐
2019年12月11日 18:10
何が面白おもしろくて駝鳥を飼かうのだ。動物園の四坪つぼ半のぬかるみの中では、脚が大股また過ぎるぢじゃないか。頚くびがあんまり長過ぎるぢじゃないか。雪の降る国にこれでは羽がぼろぼろ過ぎるぢじゃないか。腹がへるから堅パンも喰ふだらろうが、駝鳥の眼は遠くばかり見てゐいるぢじゃないか。身も世もない様に燃えてゐいるぢじゃないか。瑠璃色の風が今にも吹いて来るのを待ちかまへえてゐ
2019年12月10日 06:58
釣竿の影がうつつているこの無限の中で釣をする人はしつかり岩の上に坐つたままねむつているねむつたまま竿をにぎつている今日は川魚たちの祝祭日みんな青い時間の流れにそつてさがつている針を横目でにらみながら通りすぎる今までどうにか生き残つた魚たちの今日はお祭りなんだよ先頭を行く逞しい雄のあとを紅いろに着飾つた雌たちが一列になつておよいでゆく水底の
2019年12月9日 21:47
彼の詩集の本屋に出たのは三年ばかり前のことだつた。彼はその仮綴かりとぢの処女詩集に『夢みつつ』と言ふ名前をつけた。それは巻頭の抒情詩ぢよじやうしの名前を詩集の名前に用ひたものだった。 夢みつつ、夢みつつ、 日もすがら、夢みつつ…… 彼はこの詩の一節ごとにかう言ふリフレエンを用ひてゐた。 彼の詩集は何冊も本屋の店に並んでゐた。が、誰も買ふものはなかつた。誰も? ――い