たったひとりの

目が覚めたら
昔の彼がいた
わたしは安堵ではなく
喪失感を覚え

彼はわたしを抱きしめ
「おかえり」とささやいた
わたしは、この抱擁で
感じられないあたたかさが
ついさっきまであったことを思い出した
けれどそのあたたかさが
誰によってもたらされたのか
どうしても
思い出すことができなかった

そのあたたかさは
わたしがつくりだした
まぼろしなのだと
ひとりごちて
目が覚め

わたしはひとりなのだと
あの、あたたかさは
永遠にもたらされることはないのだと
かなしくなったとき
あなたの存在を
やっと思い出すことができて

わたしは、深く、深く安堵して
ほんとうのよろこびが
冷えた胸いちめんに
ひたひたと染み渡っていって
そんな感覚は、はじめてだった

あなたがいるよろこびを
知ってしまったから
あなたのいない世界は
わたしにとって
孤独そのもの
胃がきりきりするような
かなしい世界

わたしが
誰とでも
あたたかさを
わけあえなかったように

あなたも
同じだったら
わたしたちは
たがいにたったひとりの

けれど
あなたはきっと
誰にでも
あたたかいひと

誰にでも
あたたかさを
わけあたえることが
できるひと

そんなふうに
おもってしまう

あなたにとって
たったひとりの
わたしになりたい

2023.09.12

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