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名著『美術の物語』から読み解く:美術の歴史は〇〇と〇〇の戦い

 美術鑑賞をしていると感動の先に、その作品をもっと知りたいと思いませんか!?

・なぜこの作者はモデルの顔を精密に描いていないのだろう?

・この構図は美しいけど、数学的に計算されているのか?

・歴史的にこの作品の凄さはなんだろう?

 美術史や科学、数学や心理学など、どのような観点から興味を抱くかは人それぞれにしろ、美術はあらゆる視点で解釈と深読みができます。ただ各々の学問に枝分かれする前に、美術全体の流れを知らないと、中々理解が進まないと感じることがないでしょうか。そんな皆さんの手助けをしてくれるのが、世界一読まれている美術書、エルンスト・ゴンブリッチ著『美術の物語』です。

 本著は古代エジプトから20世紀までの美術の流れを”物語”として解説してくれる名作です。さまざまな時代の美術運動が起きたきっかけや、美術家がなぜそのような表現に至ったか等、流れるような文体で教えてくれるのです。しかし、この本全部読むのは根気がいります。そこで今回は、著者であるゴンブリッチのインタビューを要約し、美術の流れはどのような物か解説します。それは「〇〇と〇〇の戦いの物語」なのです。

【目的の停滞を引き継ぐ者たち】

 以下、引用部分はインタビューの一部抜粋です。そこから見える美術の大きな二つの流れを見ていきます。

インタビュアー:「(タイトルが)美術の”物語”ということに重要な意味があるとあなたはおっしゃっていますね。」
ゴンブリッチ:「”物語”が意味するのは、単に時系列に起きた出来事を順番に並べた年代記ではないということを意図しています。(中略)ある目的の達成が停滞した場合には、他の人がそれを引き継ぐのです。ですから、物語には一貫性があるのです」

 ここのポイントは”目的の達成が停滞した場合”と言う点です。それぞれの美術運動には目的があり、それを達成する為に美術家は手わざや脳を駆使して作品を生み出してきました。

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新古典主義代表作:ダヴィッド《ホラティウス兄弟の誓い》1784年

 新古典主義とロマン主義で例えると、新古典主義は古代ギリシアやルネサンスの理論的な絵画表現を模索したのに対し、ロマン主義では主観的な感情表現を美しさに昇華することを目的にしました。以上より、新古典主義の目的達成が時代に合わず停滞してしまった為、ロマン主義が台頭し、前時代を刷新した美術表現を試みたのです。ゴンブリッチはこの流れを”物語”と呼び、一貫性があるものだと捉えたのです。

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ロマン主義代表作:ドラクロワ《民衆を導く自由の女神》1830年

【一人称と三人称の対立】

 以下、上のインタビューの続きです。

「私の物語はある意味で、世界を表現する際の対立する2つの問題や手法の争いの物語なのです。簡潔に言うと、知識に基づく表現と、見ることに基づく表現との争いです。」

 とても簡潔に述べられていますが、これは概念の対立、描き方の対立、見たままを描くか見えるように描くか、それらの対立構造は時代ごとに異なります。上述した新古典主義とロマン主義のような構造が他の時代でも見られるのです。写実主義と印象派、自然主義と象徴主義、具体と抽象など。言い換えるなら、これは一人称的表現と三人称的表現の対立ではないでしょうか。注釈:便宜上このように述べているが、どの時代の争いも二項対立が一対ではなく、複数の二項対立を孕んでいる事を忘れないでください

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自然主義代表作:コンスタブル《トウモロコシ畑》1826年

 ここからは自論ですが、新古典主義は三人称的な絵画が多いと感じます。三人称的とは、人々の中にある美しさ(イデア)や正しさ、数学や物理現象を元にした絶対的真理を軸に作られた作品のことです。一方、ロマン主義は一人称的です。一人称的とは、作者や鑑賞者の経験が色や形を通して、感情として表出した事を言います。自然主義(三人称)と象徴主義(一人称)でも同じことが言えるのではないでしょうか。

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象徴主義代表作:ルドン《キュクロプス》1914年頃あるいは1898-1900年

【まとめ】

 美術歴史はあらゆる対立の物語であり、それはゴンブリッチで言えば「”知識に基づく表現”と”見ることに基づく表現”」、僕の言葉だと「”一人称”と”三人称”表現」の対立です。これらの考えを使えば、美術の歴史がより理解しやすくなるのではないでしょうか。その先に、楽しく感動的な美術体験が訪れることを願っております。


『Charlie Rose』Sir Ernst Hans Josef Gombrich 1995年

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