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孫正義の憂国②~ライドシェアへの規制は合理的か?~

前回では、ソフトバンクがウーバーやDiDiなどのライドシェアビジネスに投資をしていながら、日本国内で道路輸送法における、自家用車の旅客輸送の禁止と、道路交通法における旅客輸送についての二種免許の規定という二つの壁に阻まれ、ライドシェアビジネスができないということがあげられた。

本稿では、それが合理的がどうか検討したい。

道路輸送法に基づいてタクシー業は、料金の許可制、需給調整などといった具体的な調整が行われている。この規制はその時の政治状況や経済状況によって若干の揺れ動きがある。

大まかに言うと1990年代の終わりまでは、参入が免許制であり、料金や増車は許可制という厳格な規制がとられていた。しかし、2000年代の初めになると、規制が緩和され、参入が許可制に緩和されまた料金は営業区域で指定した運賃の幅のなかでの許可制、また増車は届出がなされた。しかし、2008年には再び規制がなされ、新規参入における最低保有台数の引き上げや、実働率による増車の見合わせ、減車勧告がおこなわれるなどといった特別監視地域が67から537へと増加するなどの厳格化が起きた。また、2013年には増車、新規参入の禁止を行い、供給削減措置を行う地域が設けられるなど、規制は厳格化の方向に向いた。この再規制の動きにはタクシーハイヤー連合会などの利益団体の影響があったと言われている。

これらの規制に対しする目的としては、3つのものが考えられる。

1.需給調整

2.安全性

3.待遇

しかしこれらの、いずれも規制に関する根拠としては乏しいものである。順番に説明していくと、

1.タクシー需要は天候やイベントなどや急な事情に左右されるため、その地域でのタクシー需要を図ることは理論上は困難である。また、タクシーは流し営業が基本であるため、実働率(どれだけ車庫にはいっていないか)をみてもわからない。

2.事故は、2005年からの事故件数をみると、一貫して減少傾向であり、これは規制との相関性がみられない。また、仮に事故が増加したとしても、規制が行われていない地域と行われている地域の比較によって導き出されたものではないため、ドライバーの高齢化などといった他の要因が絡んでいる可能性がある。

3.タクシードライバーの賃金は平成にはいってから減少傾向にあり、規制との相関性はみられない。また、そもそも他の産業と比較しても、待遇はよくない。例えば、2017年のデータでみると、タクシードライバーの月給は平均約27万円であるのに対して、全産業の男性は37万円とおよそ10万円の差がある。1998年のデータを見てもこの差は変わらない。つまり、待遇の問題は規制の緩和の有無とは相関性がなく、そもそもこの産業の待遇が他の産業よりも低いという問題である。また、労働時間に関して言えば、これは労働基準法の問題であり、タクシーの規制の問題ではない。

以上のように、根拠が乏しいのにも関わらず、タクシー産業は依然、規制産業としてライドシェアへの参入の壁を作っている。現状では、ライドシェアに対しての規制の緩和の効果を試す、社会実験すら行われていない状況だ。

安全、待遇といったものは大切だ。しかし、それを目的とするならば、少なくとも根拠が必要なのではないか。もし、根拠がなくただ既得権益の保護のためにライドシェアが規制されているのであれば、テクノロジーの効果すら検証できない国としての日本は利益をもたらすのであろうか。

善意に隠れた悪意が行為の裏にあり、それがあたかも善行のようであるかのように語られる。孫正義会長がライドシェアをめぐる状況に「こんなバカな国はない」と発言した裏にはこのような状況に対する憂いがあったのではないかと筆者は考えている。

その憂国が取り越し苦労であることを願いたい。

【参考文献】

【全体を通して参考にした文献】
秋山貴雄.2012.「規制緩和と利益団体政治の変容-タクシー規制緩和における言説政治-」『年報政治学会2012-Ⅱ:現代日本の団体政治』110-133。

井手秀樹.2012.「タクシー事業における規制緩和から再規制」『三田商学研究』55(2)41-56。


瓦林康人.2014.「議員立法で成立した改正タクシー特措法等の概要について」『運輸政策研究』17(2)40-43。

【孫会長の発言について】https://www.excite.co.jp/news/article/Recordchina_20180720021/

【事故について】

http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03analysis/resourse/data/h30-1.pdf

【賃金について】

(http://www.taxi-japan.or.jp/pdf/toukei_chousa/tingin29.pdf)

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