警察官や警備員は傘を指す
大韓民国歴史博物館(대한민국역사박물관)に向かっていると、その手前にアメリカ大使館があり、そこで警備をする警察官たちが日傘を差していた。その日は9月上旬でまだ30度を越える暑さ。日傘を差す警察官について、調べたところ、2018年に熱中症対策として屋外警備の警察官に日傘が配布されたのが始まりだという。
警察官たちは、片手に日傘、もう片手は何も持っていない状態で、大使館から出てくる車と歩行者の交通整理をしながら、大通りに車を誘導する役目を持っているようだった。
これを見た時、日本でこの光景はなかなか受け入れられにくいんじゃないかと感じた。もし万が一の事態(交通事故や警備上のインシデント)が起きたらどうするんだ、日傘を持っていたが故に対応が遅れるとしたら職務怠慢なのではないか、といった議論が起きると考えたからだ。職務中は業務最優先で臨まなければいけない、という主張も筋は通っている。
こうした話は、百貨店で接客をしていない店員のふるまいにも通じるところがあると感じた。接客時以外にも姿勢を正し、常に気配りが求められる職場もあれば、接客以外の時間で従業員同士が会話したりスマートフォンで家族や友人とメッセージしていても、そこまで執拗に管理しない職場もある。
夏は日差しが強いんだから業務に大きな支障がなければ日傘を指してもいいんじゃない?という話と、百貨店で働いていてもお客さんが来ないならリラックスしていてもいいよね、という話は、近いように感じるのだ。
つまり、勤務時間とふるまいという観点から考えると、下記の2つの考え方があると整理することができる。
1)勤務時間は、会社が占有する時間だから、すべての時間を仕事に費やす必要があり、また常に社員としてふるまう必要がある。
2)勤務時間であっても、業務のためにその人から借りた時間だから、業務上必要がなければすべての時間に仕事に費やす必要はなく、その人の素のふるまいに戻ってもいい。
今回の警察官は公務員であり、給与の支払いに税金が使われているということもあって、こうした問題に特に過敏だと思う。分かりやすく言えば、税金を使っているのに手を抜いている、と批判されがちな立場だ。
日傘を差す警察官。人間的でいいなあと僕は感じるのだろうが、みなさんはどうだろうか。
僕としては、給料が払われているんだからベストを尽くすべきという話の筋は分かるけれど、まず警備をしてもらっているという感謝の気持ちや、その人が快適に働けているかという配慮の気持ちがあるべきだと思う。特に公務員は、市民の仕事を引き受けてくれている市民代表であり仲間なのだから、お疲れさんと声をかけてビール1杯奢るくらいの気持ちがあってもいいと思うのだが、どうだろう。私のみる限り、少なくとも日本では、公務員が一般会社員よりも辛辣な言葉で批判されたり、平然と見下されたような扱いを受けるのが当然とされることが多く、それを見る度に悲しい気持ちになる。
もしかしたら、自分の父が公務員だったということも、僕のこうした感じ方に少し影響を与えているかもしれない。もちろん仕事の内容について議論や批判があるのは当然のことだし、行政の仕事というのは法令に基づいて実施されるものなので、プロセスが非効率的だったりユーザビリティが悪いところも多々ある。ただ批判のされ方を見ていて、公務員に対してなら何をいってもいい、みたいな扱われ方をされているとやっぱり心が傷む。僕の大学時代の友人の何人かは公務員として働いているので、彼らの顔も思い浮かぶ。そうすると、公務員には何をやらせてもダメだ、コロナ対策が何もできていない、のような人格否定・全否定的な発言は僕にはできないし、ここはできているけどここは改善すべき、みたいな建設的な発言になるべきだと思っている。
公務員という職業が社会の中でどのように位置付けられているか、ということも関係しているかもしれない。このあたり、人によって、国によって、意見が分かれるところだと思うので、ぜひ他の方々の意見も聞いてみたいと思っている。
中澤大輔
芸術家、デザイナー、物語活動家
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