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SFコメディ小説 『ベン』



第3話


ニャンコゥ登場

リビングのソファで、小一時間ほど眠れた千翼ちひろは、頭がスッキリしたように思った。
レースカーテン越しの日差しがずいぶん暑いと感じるようになっていた。


「10月に入ったゆうのに、まだまだ日中は暑いなあ」


そして、換気をしようとレースカーテンを引き、窓を開けた。
すると、網戸のすぐ側に、見上げられている視線を感じた。
千翼ちひろは顔は動かさず、視線だけを下に落とした。


「!?」

そこには、一匹の猫がいた。カウボーイハットを被っているではないか。
そして、真っ直ぐ千翼ちひろを見上げいてた。逃げる気配もない。
ここはまたもや軒下だ。
まさかと思いながら、近くに置いていたスマホを取りに行った。猫はまだ座って千翼ちひろを見ている。
そしてスマホのカメラをかざす。


「名前 ニャンコゥ 
 性別 オス
 年齢 11歳 
 出身 イタリア トスカーナ
 好きなもの トスカーナの赤ワイン
 趣味 『続・荒野の用心棒』ごっこ
 別名 「さすらいのニャンコゥ」(と呼んでほしい)
 特技 空気鉄砲を百発百中させることが出来る
    どこでもすぐに寝られる
    ゴーゴーダンス」



千翼ちひろは、読み終えてすぐには言葉が出なかった。
「……… 」
猫に見つめられている。猫の瞳はキラキラ輝いていた。


千翼ちひろは意を決した。
「あ、あのさあ、あなたも話せるのかな」

「ニャンコ〜ゥッ‼︎」
千翼ちひろが話し終わるか終わらないかのタイミングで猫が言った。

ええ声だ。

「ニャンコゥってのがボクの名前!」

猫はニカっと笑った。
千翼ちひろは、昨日のベンで免疫ができたのか、スマホを投げずにいた。まだ昨日のたんこぶの腫れは引いていない。


「ニャ…、ニャンコゥ、お尋ねしますが、イタリアからどうやって来たの?
 しかもどうして京都に?」


「よそよそしく話さないでね🐾
 ボクは、ニッポンのサムライに興味があって来たのさ。
 イタリア人の友だちがニッポンに留学に行くって言うから、
 ボクもぬいぐるみに扮して連れて来てもらったんだ。
 京都には昔からのニッポンがたくさんあるだろ?」


千翼ちひろは、京都についてイタリアの猫にまで知られていることに驚きながら、
「そうなんや……」
と言うのが精一杯だった。


猫まで人間の言葉を話せる、しかも、イタリアの猫が日本語を話しているのだ。
どこかのテレビ番組でたまに見かける、ドッキリのようなモニタリングのようなものか、はたまた猫はよく出来たAIロボットか…。


千翼ちひろは網戸越しに、ニャンコゥをまじまじと見た。
少しでもいろんな方向から見ようと網戸に手を当てたまま左右上下に動いてみた。
ニャンコゥも猫じゃらしを追うように千翼ちひろの動きを顔で追った。
ニャンコゥの青銀色のようなグレーのような毛並みが艶やかに風になびいていた。
ニャンコゥは見つけてもらえたことが嬉しそうだった。


と、その時!

千翼ちひろの手に力が入り、網戸がレール部分から外れ、軒下のニャンコゥの方へ千翼ちひろごと傾いていった。

千翼ちひろは足の指全部を使って踏み止まろうと試みるも…、
網戸から両手を翼のように押し出してみるも…、
お尻でバランスを取ろうともするも…、
スローモーションに倒れていく自分をどうすることも出来なかった。


ドッスーンッッ💨

ニャンコゥは咄嗟とっさけて無事だ。


すぐさまニャンコゥは、千翼ちひろの左腕の下に潜り込んで、両手で持ち上げようとしてくれた。
そして、擦り傷だらけの千翼ちひろを励ました。


「大丈夫だよ、起きられるよね?
 少しだけ擦りむいてるから、後で水で洗い流そうね。触っちゃダメだよ」


そう言って、起き上がるのを助けてくれた。


〈イラスト「ニャンコゥ登場」・文 ©︎2021 大山鳥子〉


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