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乳房炎の治療に用いる抗生物質の種類について

はじめに

抗生物質とは微生物の発育を阻害する物質のことです。

最初に発見された抗生物質はペニシリンと呼ばれ、1928年イギリスのアレクサンダー・フレミングという人によって発見されました。

以前に放送されていた「JINー仁ー」というドラマを見ていた人は聞き覚えがあるのではと思います。

抗生物質には殺菌作用を示すものと静菌作用を示すものがあります。

●殺菌作用とは微生物を死滅させること
●静菌作用とは微生物の活動を静止させることを言います。

静菌作用の抗生物質は微生物を排除することはできませんが、自己免疫能力により殺菌されます。

今回は抗菌薬をテーマにやっていこうと思うのですが、ちなみに抗生物質の種類とかなにが一番いいのかとか気になったことはありませんか?

僕は以前から原因菌によって抗菌薬は使い分けるべきじゃないのかな~?とか思っていたんですが、

実際、調べてみると・・・

●抗生物質の数が多すぎてよくわからない
●内容が堅すぎてなにが大事なのかわからない
●何を基準に選択するべきかわからない

と何から着手したらいいのやらって感じでした。

そんなこんなのことがあったんですが、ようやく重い腰を上げてリサーチが進んだのでまとめてみました。

主要な抗生物質とその分類

乳房炎の治療に用いられる抗生物質にはペニシリン系、セフェム系、アミノグリコシド系、マクロライド系、リンコマイシン系、テトラサイクリン系などがあります。

殺菌性抗生物質・・・ペニシリン系、セフェム系、アミノグリコシド系

静菌性抗生物質・・・マクロライド系、リンコマイシン系、テトラサイクリン系

それぞれの種類にさまざまな特徴がありますが、
①どんな微生物に有効か(グラム陽性菌orグラム陰性菌)
②βラクタマーゼ産生菌に対して有効か
の2つに絞ってみていきたいと思います。

グラム陽性菌・・・ブドウ球菌、レンサ球菌
グラム陰性菌・・・大腸菌、緑膿菌、クレブシエラ

βラクタマーゼ産生菌とはβラクタム系の抗生物質を分解する酵素を有する微生物です。

ペニシリン系(殺菌)

ペニシリン系の主な抗生物質の種類は以下の通り。

・アモキシシリン
・アンピシリン
・クロキサシリン
・ナフシリン
・ペニシリンG
・ペネサメート

ペニシリン系抗生物質は一般的にグラム陽性菌に有効で、グラム陰性菌には無効と言われています。

しかし、アモキシシリンやアンピシリンはグラム陽性菌とグラム陰性菌の両方に有効です。

また、ペニシリン系は基本的にβラクタマーゼ産生菌には有効ではないので、しっかりと選択していく必要があります。
しかし、例外としてクロキサシリンとナフシリンはβラクタマーゼ産生菌にも有効であると言われています。

セフェム系(殺菌)

セフェム系の主な抗生物質の種類は以下の通り。

・セファゾリン(第一世代)
・セファロニウム(第一世代)
・セフキノム(第三世代)
・セフチオフル(第三世代)

第一世代はグラム陽性球菌に有効で、E. coliやKlebsiellaなどの大腸菌群にもやや有効と言われています。
第二世代、第三世代と上がるにつれてグラム陰性菌に対する有効性が増加しますが、反対にグラム陽性菌に対して効き目が低下します。
第四世代ではグラム陽性菌、グラム陰性菌の双方に対してとても有効です。
βラクタマーゼ産生菌に対しては有効ではありません。

アミノグリコシド系(殺菌)

アミノグリコシド系の主な抗生物質の種類は以下の通り。
・カナマイシン
・ゲンタマイシン
・ストレプトマイシン
・ジヒドロストレプトマイシン
・ネオマイシン
・フラジオマイシン

アミノグリコシド系は浸透性が悪いため基本的に注射によって投与されます。
大腸菌やβラクタマーゼ陽性ブドウ球菌に効果があると言われています。
単独で使うというよりは、他の製剤と組み合わせて用います。

マクロライド系(静菌)

マクロライド系の主な抗生物質の種類は以下の通り。
・エリスロマシン
・タイロシン

基本的にグラム陽性菌やマイコプラズマに対して有効で、グラム陰性細菌に対しては効果がありませんが一部のグラム陰性細菌には有効です。
タイロシンは他のマクロライド系よりマイコプラズマに対して効果が高いと言われています。

リンコマイシン系(静菌)

・リンコマイシン
・ピルリマイシン

グラム陽性菌に対して有効で、グラム陰性菌に対しては効果が薄い。

テトラサイクリン系(静菌)

テトラサイクリン系の主な抗生物質の種類は以下の通り。

・テトラサイクリン

テトラサイクリンはグラム陽性菌とグラム陰性菌の両方に有効で、βラクタマーゼに対しても有効に作用します。

まとめ

今回は乳房炎の治療に用いられる抗生物質にどんな種類があるのかについて解説してみました。
ほんとはもっとあるのですが、論文とかで目にするものを中心にまとめてみました。

実際、現場ではここに示したほとんどの抗菌薬を使うことはありませんが、乳房炎の種類や原因菌に対して有効であるものとそうでないものがある!くらいのことは理解して欲しいです。

この知識がないと必要以上に抗菌薬の使用量が多くなり、薬剤耐性菌のリスクも増加します。

牧場によって乳房炎の原因となっている病原体は異なるので、定期的に検査を行うことで適切な抗生物質を選択していくことがベストだと思います。しかし、担当の獣医師に必ず相談すること!

微生物の検査をすることで、搾乳衛生に問題があるのかや飼養環境に問題があるのかなども大まかに把握できると思うので、ぜひ実践してみてください!

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