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長男をめぐるあれやこれと怪盗クイーンの話

2024 長月。

とにかく、長男とよく喧嘩をした月だった。

(何かの折に)「(子育てをしていて)ブチ切れること、ありますか?」と聞かれた。
その時は、ブチ切れる元気もなくなってきたと答えた。けれど、実際は、一度長男相手にブチ切れて、玄関から引きずり出して、追い出して、鍵かけました。


ちなみに、本人は、開いていた窓を探し出して、ちゃっかり入ってきた(一階の窓ね)。
※実話


子どもは一人の人間なので、
親の思う通りにならなくて、当然。
まして、来月11歳になる思春期入り口の子どもなら、なおさら。

分かっている。
分かっているのだが‥腹が立つ。
約束を破る。減らず口をたたく。弟に八つ当たりをする。
特に、この「弟(次男)に八つ当たりする」そのやり方と度合いが、私から見ると許せない。
次男にしてみたら、ただでさえママがピリピリしていて、自分は空気読んでおとなしーくしているところに、お兄ちゃんに煽られ、しつこく絡まれ、下手したら手を出され、えらい迷惑のはず。
なのに長男は、九割九分九厘自分が悪いと分かっていながら、いや分かっているからこそ謝らない。


こうして書いてみたら、何てことはないただのガキンチョなのだが、残暑厳しい新学期、親の私もなかなか疲れが抜けず、小さいことで苛々苛々していた。


しまいに怒る気力も失せて畳の部屋でふて寝をしていたら、「今日はどうしたん」と聞かれた。
いや、ほぼほぼきみのせいやで。
(その日の夜は、奇跡的に、仲良くマリオカートをしていたボーイズだった。そんなこともたまにある。)



ある連休の日のこと、
実家に届けるお菓子でも買おうと、一人外に出たついでに、本屋に寄った。
家ではボーイズは漫画ばっかり読んでいる。まだまだ連休もあるし、外遊びには暑いし、彼ら向けの本でも買ってあげようかなぁ。

ふと、「10歳の 〜 」というタイトルが目に入ってきた。
10歳までに身につけたい、
10歳までに読んでおきたい、
10歳のきみにおくる、
10歳のミッション‥

えらくたくさんあるなぁ。
長男とっくに10歳やん。
もうすぐ11歳やん!


10歳の子につけさせたい力は、
もしかすると、親の私が用意しないといけなかったんじゃないだろうか?

あんな屁理屈は言うわ、こんな憎たらしい態度をとるわ。外の社会に出たら通用しないぞ。
でも、困るのは子どもだとしても、本当は、親が教えるべきだったのに、私が、それを怠ってたんだろうか。
だから、今こんなことになっちゃってるんだろうか‥

思わず、いちばん手前にあった本を手に取った。



その一冊をしっかり握ったまま、本屋を一周した。ビジネス本の棚のところまできた。資格勉強の本、自己啓発本なども並んでいる。
気になった本から順に手に取った。
眺めてみる。



いつでも上手くいく人の◯つの習慣、
いつもご機嫌な人のやっていること、
成功する人の◯◯術、
すぐやる人の◯つのコツ、


手に取って、戻して、
手に取って、戻して。




‥‥



何やってんだ私。



30代のうちにしておくべきことも、
20代のうちに覚えておきたいことも。一度も読まないまま、40代も半ば近くになった。
「不惑」とほど遠いのは、私が、40歳までにするべき何かを、どこかに置いてきたからだろうか。



ちがうやん。

そんなん、人に決められることでもないやん。
10歳までに覚えておきたい本を買ったって、
13歳までにするべき本に、また追いかけられる。
それどころか、90歳の壁、100歳までに なんて本もあった。
全部コンプリートしたとして、その次は何?



そんなん、よその誰かに分かってたまるもんか。

10歳の息子が親に反抗しようとするのは、当たり前のことやん。
それだけじゃない。親になって10年の私が、子どもの急な成長と変化を目の前にして、初めてのことにイライラ、うろうろしたって、別にいいやんか。


いつでもご機嫌じゃなくたっていい。

もちろんご機嫌ならそれでいいけど。

いくらでもかかってこーい!
一緒になって悩んでやる。


危なかったー。

私は全ての本を元の位置に戻して、
その日は何も買わずに本屋を出た。





その日の夜、早めにスマホを充電に繋いで、長男が図書館から借りていた本に手を伸ばした。

「長男ー、これシリーズ3冊借りてるけど、どれがいちばんおすすめなん?」
「んー、どれも面白いけど、オレはそのバカンスのやつ好き。」


『怪盗クイーンの優雅な休暇バカンス
著者は はやみねかおる。講談社・青い鳥文庫、初版2003年、460ページ。
学級文庫で発見し、読んでみたら面白かったので図書館でも検索して借りたそうだ。


今まで、探偵ものは読むと知ってたけど(おしり探偵、もしかして名探偵シリーズ、最近では放課後ミステリクラブも)、意外なことに探偵の次は怪盗にきた。
漫画か、分厚いゲームの攻略本だけでなくて、小説も読んでたんだね。


私も読んでみた。
個性豊かなキャラクターたち。因縁ある相手てきが次々に待ち受ける。
しかし、主人公は特に苦戦する気配もない。サクサクッと話が進む。

どちらかと言うと、長男は、主人公がいかに知恵と工夫で危機的状況を切り抜けるかということより、キャラの立ったユニークな登場人物たちの、人間関係模様や、知的でリズムのいい会話のやり取りを楽しんでいるみたいだ。

私が個人的に気に入ったのは、事件解決後のエピローグで、小国のプリンセスが今回の物語を振り返るところだ。

「どの出来事も、みなそれぞれ思い出深く…」
その後、言葉を切って、密かに思いを寄せていた人物を見つめながら、いちばん楽しかったのは、この数日間の自分の経験だと語る。

これ、〝ローマの休日〟のアン王女のセリフじゃない?


‥と言ってもそんなシーンを長男が知る訳もなく。この本を読む多くの小学生から中学生くらいの子たちが、有名すぎるあの映画の場面を知っているとも思えず。
作者のはやみねさんは、きっとニヤニヤしながら楽しく書いていたんだろうなぁ‥と勝手に想像する。



ところで。一冊読み終えたところで、私は長男に聞いてみたいことがあった。

「長男、面白かったわー。ありがとう!」
「ん」
「あのさ、怪盗クイーンはさ、性別不明ってなってるけど、長男はどっちやと思う?」

主人公怪盗クイーンは、通称こそ女王クイーンで、変装巧みに老若男女いろんな人物に成りすますが、容姿端麗・性別不明。
(おしり探偵に出てくる怪盗Uも確かそんな感じだった。)
仕事上の相棒パートナージョーカー(無愛想でぶっきらぼうな、こちらはシリーズ第一作に男性とある)との関係や感情も、何となく気になるような、思わせぶりな描かれ方に留められている。


「(キッパリ)オレは、クイーンは男やと思う」
「(ほう、それはママと同じ意見だね)それは、なんで?」
「だってさー、クイーンは働くんが嫌いで、部屋でひっくり返ってだらだらワイン飲んでたりするから、そんなん、女の人はしないと思うから」
「(そこはママと違う意見だね)なるほど」



約束を破っては減らず口をたたき、弟に八つ当たりをして私に叱られ、時には冗談めかして私のことをBBAババァと言うようにもなった長男だが、
異性に対しての感覚は、まだまだピュアらしい。



来月で彼は11歳。
今後が、楽しみだ。



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