暗記か理解か

「丸暗記教育はよくない」
「本質を理解することが大事」
「ネットで調べれば分かる時代に暗記は必要ない」

などの意見があり、「暗記」というもののイメージはどうもよくないようです。

 一方で、良識ある先生の多くは「やっぱり暗記が大事」と言います。特に「語学は暗記」とおっしゃる方が多いですね。

 私はどちらの意見も一長一短あると感じています。

 まず第一に暗記と理解は対立する概念ではありません。
 理解することで暗記しやすくなり、暗記していることが沢山あると理解も深まるものです。

 例えば、前置詞の基本的なイメージを知っておくと、色々なidiomが覚えやすくなり、idiomを沢山覚えていくと、前置詞のイメージもより豊かで深いものになっていきます。

 だから、先に本質を理解しに行くか、先に量をこなして気合いで暗記するか、どちらの方法が良いかは、状況や科目・分野や当人の特徴によって変わってくるわけです。

 私は、理解の重要性を強調することも暗記の重要性を強調することもあります。

理解を強調するときは以下のような事情からそうします。

①受験生は「理解」に対する意識が弱い傾向があります。不安だから、とりあえず勉強する!という学生が多いです。難関大志望の学生であれば、多くの受験生は毎日勉強時間をしっかり取っています(口だけ難関大志望で行動が伴っていない学生もいますが、そこは無視することにします)。
 受験までに、暗記にかける時間を増やそうにも、そう簡単には増やせないものです。だから、理解を大事にすることで、勉強の効率を上げるようにアドバイスします。(もちろん、早めに受験を意識して勉強すればいいのかもしれませんが、私は部活や学校行事も楽しんで欲しいなあと思います。)

学力が低い層には「暗記」という言葉が、講師が意図するものと違った形で伝わりがちです。学校の定期テストのために、プリントの空欄に入る単語を覚えたり、四択の文法問題を解いて答えだけを覚えたりする勉強しか知らない学生がいます。なまじ真面目な学生だと小中の勉強はそれで中の上くらい成績をとっていて、その勉強法が良くないことに気づいてすらいない場合もあります。
(この状態の学生にドリル学習を課すことは、悪習を強化する結果を招くので危険だと思っています。正しい学習姿勢を持っていれば、ドリル学習で感覚を磨くことができますが、悪い学習姿勢の持ち主が、ドリル学習を繰り返すと、感覚が鈍磨し麻痺していきます。学校教育の中でそうなってしまう人はとても多いです。)
 そういう学生に「暗記が大事」と言うと、何も考えずに丸暗記に走ってしまう恐れがあります。そういう層には「丸暗記事項に見えるものの裏には理屈や意味があるんだよ」というメッセージが響くのです。言葉にはその文法に論理(のようなもの。論理という単語がかなり曖昧ですが)があることに感動してもらうことは、勉強の最初の一歩としてとても大事だと思います。歴史の流れには法則性(この単語もかなり危なっかしいですが)があることに感動してもらうことが大事です。
 一方で「暗記より理解」が、学生が楽をするための方便になってはいけません。文系教科は理屈で割り切れないことや、理屈を無理につけるとかえって分かりにくくなることや、過度の一般化をするとこぼれおちる事象があります。そういうのは「仕方ないから暗記ね」と僕は伝えます。


暗記が大事だと言うのは、次のようなときです。
①その後の勉強をスムーズに進めるためにとりあえず覚えておくべきことがあります。例えば、世界史を勉強するためにはヨーロッパの地理が必須です。英語長文を勉強するならセンターレベルの英単語は先に覚えておくべきです。理解は後から付いてくるので、まずは暗記です。

「ネットで調べれば分かるから暗記は必要ない」は間違っています。血肉化した知識は自分を支えてくれます。例えば、ネットで調べれば太平洋戦争の知識は出てくるかもしれません。でも、現代の政治を見て、「太平洋戦争のときと、こういう点で似ている。こういう点では似ていない。」と気付くためには、太平洋戦争に関する知識を暗記していなければなりません。必要な時だけ調べる人には、見えてこない視点があります。世界史や日本史を深く勉強すれば歴史的視点から、英語を深く勉強すれば、語学的視点から物事を眺められるようになります。その土台になるのは、暗記した知識です。

「だいたい覚えていること」と「完璧に覚えていること」は質が全然違います。「完璧に覚えていること」は大きな力になります。また、長い期間放置しても忘れにくいです。
 学生は「だいたい覚える」と「もう大丈夫」と安心して、それ以上勉強しない傾向があります。問題が解けると、大丈夫だと勘違いしがちです。問題にはヒントがあるので、うろ覚えの知識で対応できてしまうことも多いです。

 僕の場合、歴史を暗記するときは、何も見ないで全て完璧に説明できるまで繰り返していました。このくらい負荷をかけて、完璧に覚えるとどういう問題形式にも対応できます。
 音読も回数が大事です。数回の音読よりも、数十回の音読がいいです。自然に暗唱できるレベルまで持っていくと、英語のリズムが体に染み付いてきて、似た構文に自然に無意識に対応できるようになります。数回の音読では意識的にしか対応できません。


結論は、
暗記も理解もどっちも大事。どちらをより大事にするかは、その都度見極めないといけない
という、なんとも煮え切らないものになりました笑

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