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入院136日目:元恋人の絵

今日から8月。

お母さんが退院するまで一ヶ月もない。

 
キッチンで料理をするにあたり、休憩用の椅子を用意した方がいいと理学療法士さんに言われ
私はネットで小まめにチェックしていた。

身体が不自由な方なら土台がしっかりした椅子がいいが
ササッと腰かけるなら片手で運べるような椅子がいい。


 
予定では、ピックアップでキッチンまで移動し、料理中は横移動する。

 
お父さんからは、折りたたみ椅子はやめた方がよく、背もたれのある椅子を提案される。

 
お母さんからは背もたれつきの軽めの椅子のリクエストがあり、どれを購入するかは「任せた。」と言われる。
任されるのはかまわないが、後から色々言われないか心配だ。
任せる割に言うことは言うのがうちのお母さんだ。

 
 
 
今日は暑い中ポスティング作業に出掛けた。
暑いのはキツいが、今日は最高気温34度なので午前中はまだマシだった。

明日のポスティング作業は誰が行くかの話になった際、前施設長が「新施設長が倒れたら大変だから他の職員で行って。」と言ったので内心腹が立った。

 
前施設長は先月、「新施設長は体力があるからポスティング作業は多めに任せて。真咲さんは担当だからといって一人で背負い込むことはない。」と言い放ったし、新施設長も多めに任せていいと言ってくれた。

 
私は暑さが大の苦手だ。
腰痛持ちでもある。

だけど、それを打ち明けても、結局はやらざるを得ない状況で疲れはとれないし、腰痛はよくならない。

 
ポスティング作業に行きもしないくせに、いちいちうるさい。
新施設長は前施設長がいない時に自分がやってもいいと言ってくれたが
イヤミを込めて、「前施設長が新施設長が倒れたら大変なので明日はポスティング作業に行かせないよう話していました。(私は倒れてもいいそうなので)私はポスティング作業担当ですし、私が行きますね。」と言った。

周りの同僚は私の負担を心配してくれたが、ここで新施設長に行かせてまたうるさく言われたら面倒だし
新施設長以外が行けという命令に従ったのだから
私が倒れたりしたら、責任は上になる。

 
新施設長は長距離マラソンが趣味だし、体調を崩したのを見たことがないし
周りの同僚も多少のポスティング作業くらいで新施設長は倒れはしないと言っていたが
前施設長が命令するなら仕方ない。

 
 
明日は午後も体力を使うし、私はピストンで何人もの人の運転もしなければいけないし
体力を温存したかったが、仕方ない。

新人さんは私の気持ちを分かってくれたのでありがたかった。
「ポスティング作業に一回も言ったことない人がつべこべ言うな。ポスティング作業は真咲さんと新施設長担当なんだから、二人で話し合った方針によく分からないくせいに毎回面倒なことを言ってきて大変そう。」と言ってくれた。
まさにその通りだ。

 
現場は疲れ切っている。
みんなしんどくて、仕事の負担が大きくていっぱいいっぱいで
誰がいつ辞めても退職してもおかしくない。

 
上が変わることも、いなくなることもない限り現状が続く。
仕事がしんどい。

とりあえず極力関わらないようにしなければ。
関わるだけ時間の無駄だ。

 
 
 
日中お母さんから、おばあちゃんの部屋に飾ってある絵を売ってほしいと言われた。
何故衝立が売れた翌日に言うのか。
お母さんは、売る大変さをちっとも分かっていない。
退院後は元おばあちゃんの部屋はお母さんの部屋になるから、おばあちゃんの形見の品を片付けたいのだろう。
気持ちは分からないでもないが、退院してからでも間に合うはずだ。

それにあの絵に価値がある気はしない。

  
おばあちゃんの部屋に飾られてある絵は、私が小さい頃から飾ってあった。
引っ越しをしてからもおばあちゃんの部屋に飾られていた。

お母さんの話によると、おばあちゃんが好きな人からもらった絵らしい。
おじいちゃんもおばあちゃんもそれぞれに好きな人がいたらしいが、時代や家の関係で好きでもなかった者同士で結婚した。

 
だからうちのおじいちゃんとおばあちゃんは特別仲がよかったわけではない。
おじいちゃんが脳梗塞後は特に、おばあちゃんはおじいちゃんをバカにする発言が目立った。
毎日のように怒鳴り合ったし、朝から怒鳴り合うこともあった。

おばあちゃんは孫の私には優しかったし、仲の良い一人には一途に尽くしたが、見下した相手にはとことん冷たかった。
  
  
そんなおばあちゃんが何十年も部屋に飾る絵なのだから、相当好きな相手だったのだろう。
結婚し、子どもや孫に恵まれながら絵を飾り続けるのだから相当だ。

 
その絵をマジマジと見たら描いた人の名前が描いてあった。
おばあちゃんの好きな人が描いた絵かと思ったが、どうやら違うらしい。
検索にかけたが引っかからないから
おそらく趣味で誰かが描いた絵なのだろう。

 
お父さんはおばあちゃんの形見の品を全て売ったり捨てたりは申し訳ないと、その絵を外し
代わりに仏壇の間に飾った。

おばあちゃんとおじいちゃんの遺影が飾られた部屋におばあちゃんの昔好きだった人からもらった絵が飾られ、ますますシュールさを増した。

 
 
あの絵はお父さんが亡くなったら処分しよう。


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