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少しだけ感情的になった瞬間

販売イベントは大抵土曜日にあり
翌週の月曜日に売り上げや何がどれだけ売れたかを
利用者と確認する。

その担当は販売に行った利用者と職員が基本的には行う。

 
そして販売イベントが土曜日にある場合
木曜日に準備をする。
基本的には。

 
異変は週のはじめに起きた。

施設長「今日片づけつつ、今度の準備しちゃえばいいじゃない!ねぇ、真咲さん!」

断定だった。
断れるわけがない。
  
 
それはキツいんじゃないか?

なんて言えるわけがない。

 
一緒に販売イベントに行く予定の同僚と目を合わせた。
その同僚も私と似た気持ちであることが伝わった。

 
慌てて
次の販売イベントの打ち合わせを行うが
その間に待ちきれない利用者が我流で動いてしまう。

「まだ触らないでもらっていいですか?分からなくなるので。」

同僚が利用者に声をかけるが
利用者は苛立つ。

 
「売れた数が分からなくなりますから。」

 
珍しく同僚が言葉に感情を込めた。

抑えようとしているが
苛立ちや焦りが含まれている。

 
転職して初めてだった。
同僚のそんな様子を見たのは初めてだった。

 
元彼に似た顔のその同僚は
施設の中で一番穏やかで大人の対応で聞き上手で
いつも一歩下がって全体を見ていて
スッと手を差し伸べてくれる。
そんな人だった。

 
おそらく予期せぬ施設長の指示に焦り
私の焦りを見抜きもしたはずだ。

私を心配し
仕事をミスしないように
利用者に暴走しないように伝えてくれたのだろう。

 
私の職場は品数が多い。
在庫数も多い。
在庫の棚に利用者が販売の売れ残りを勝手にしまったら
売り上げが分からなくなってしまう。

 
私のために感情を込めた言葉を発したと思うと嬉しかった。

 
 
私があたふたしながら
利用者と一緒になんとか片付けや準備をこなしていると
時間を作って同僚が様子を見に来てくれた。

「終わりそうですか?」

と。

 
なんとか終わりそうなことを伝えたら
穏やかに笑顔を見せてくれて
私は嬉しくなった。

「こちらの仕事は自分がやりますよ。」

と言ってくれて
私はまたも嬉しくなった。

 
ずっとこの人は
いつ感情を出すのだろうと思っていた。
悔しいくらいいつだって穏やかで大人の男性で
いちいち一喜一憂する私を幼く感じてしまう。

 
同じなんだな。

そう感じられて
私は距離が少し縮まった気がした。

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