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停車が苦手な利用者

前の職場には 
車の停車が苦手な利用者がいた。

 
車がどこかに停まるたびに
「ううぇぇぇえ!ううぇぇぇえ!」とグズる。

 
そんな時に周りが「うるさい。」とか何も言わないどころか
ある利用者にいたっては「大丈夫だよ~。歌でも歌おうか?」と、いつも優しく慰めたり、励ましてくれた。

優しいなぁと感じ、心があたたかかった。
心強かったし、ありがたかった。

 
発車すれば、すぐにケロッとするが
停車するたびに必ずグズっていた。

 
私の担当利用者ではなかったが
よく送迎をしていた。
日中は挨拶くらいしかいない関係だったけど
私はその利用者が好きだった。

 
お母さんはいつも優しく、笑顔だった。
娘が大好きなことがよく伝わっていて
話すと優しい気持ちになれた。

 
たまにしか会えないお父さんは
お母さんより更に優しい笑みで
娘が帰ってくる時
いつもすでに外で待っていた。

 
お父さんが仕事休みの日は
送迎が終わったらドライブに行くのが恒例だった。

 
その利用者は停車が嫌いなだけで
ドライブ自体は大好きだった。

 
たまにしか会っていなかったはずのお父さんなのに
あの満面な笑みは今でも忘れられない。

全身全霊、命をかけて娘が大好きだということが
ビンビンに伝わってきた。

見ているだけで幸せなご家族だった。

 
同僚と利用者の関係になってから数年が過ぎ
私は退職が決まった。

 
最後の勤務日はその方の送迎で
私は朝、退職を告げた。

 
私の退職を知り、慌ててお菓子を買ってきて他の同僚ごしに渡してくれた。
帰りは別の送迎担当だったからだ。

私にはお礼を言うことさえ叶わなかった。

 
そんなことをふと、思い出した。

 
 
あのご家族がこの空の下
今日も笑えていたらいい。

今でも一人
静かに思い出す。

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