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真夜中の通学路

男と女の間に友情は存在するかという問いは
昔から繰り返しされてきた。
30数年生きてきた身としては、「存在するとも言えるし、存在しないとも言える。」というのが持論だ。

もし、どちらか一方でも恋愛感情を抱き、友情以上のものを求めだしたら、友達関係を続けることは極めて難しいと個人的には思う。
「最初はただの友達で意識していなくて」なんて、後に恋人もしくは結婚した人が話す第一印象の定番だ。

では、お互いに恋愛感情を抱かなかった場合はどうなるか。
私はその場合は男女の友情は成立すると思っている。

 
 
私がA君と出会ったのは中学校一年生になったばかりの春、教室だった。
私のななめ前に座る見覚えのない男の子は、最初の自己紹介の際、他県からこの春に引っ越してきたことを告げた。
私がまだ行ったことがない県だったので、自己紹介の後に私は話しかけた。
それが最初の話したきっかけだった。

 
A君とは気が合った。
中学校は三年間同じクラスだったし、部活は違かったが、うちの部の隣のスペースで彼等は活動していた。
三年間同じ塾でもあった。志望校が同じでもあった。
必然的に話すことは多かった。
私は同じ中学校の男子の中で一番A君が話しやすいと思っていた。

 
中学校卒業後、私は志望校に落ちてA君は合格した為高校は離れたが
そこで関係は途切れなかった。
高校入学を機に携帯電話を一人一台所有した時代で、携帯番号とメールアドレスを交換していた。
そもそも、お互いの家の電話番号を知っていて、長電話の時は家からかけていた。
今とは違い、かけ放題がなかった時代だ。携帯電話同士の長時間通話は通話料が高かった。
メールと、ちょっとした電話が主流のガラケー時代だ。

私とだけではなく、親友とA君も仲がよかった。
三人ともバラバラの高校に行ったので、私と親友が遊んでいる時はA君も呼び出して三人で遊んだり、A君に電話して三人で電話をしたりといったこともやった。
初めてパソコンで音声チャットをしたのも三人でだったし、今流行りのビデオ電話も、今から10年以上も前にパソコンカメラを使って三人でしたりもした。

 
高校を卒業した後、三人とも他県の大学に進学したが
それでも私達は仲が良かった。
A君がかなり遠くに進学した為、大学入学後は二人で1回会ったきりだったが、相変わらず電話やメールはしていた。
 
 
再会は成人式だった。
最後に会った時よりもかっこよくなり、私服はお洒落になっていた。垢抜けたというやつだ。
成人式の後、中学校のみんなでお店を貸しきって飲み会をしていたが、私はみんなとの再会を喜びつつ、最終的にはA君とばかり話して周りから冷やかされた。
飲み会後、男子が女子を家まで送ってくれることになり、A君は私を送ってくれた。
親が「迎えに行くよ。」と言ってくれたが、私が「A君が送ってくれるって。」と言ったら「A君なら安心ね。」と返された。
A君は私の家族にも信頼されていた。
そもそも、うちの母親とA君の母親は顔見知りだ。

 
夜道を男の子と二人で歩くのは初めてだった。
A君と会うのはいつも昼間、もしくは夕方だった。塾が同じとは言っても、お互いに塾が終わればすぐに帰っていたし、私は親に迎えに来てもらっていた。
私はさり気にA君が道路側を歩き、私を内側にしていたことに気づいた。

「そこ、まだ雪が溶けてないから危ないよ。」

そんなことも言ってくれた。
私は夜道の帰り道、A君の横顔を見ながら初めて「男」だと認識した気がする。
私の隣を歩くその横顔は、初めて会った時よりずっと大人びて見えた。

 
 
ドラマや漫画ではこの展開なら恋に陥りそうだが、私達は恋にはならなかった。
成人式で再会した時、A君にはかわいい彼女がいたし、私もやがて彼氏ができた。
お互いに恋人に悪いからと二人きりで会うのは控えていたし、長電話では雑談から惚気、恋の悩み相談や将来の話が多かった。
それは中学校時代から変わらない。

「お前は男心っていうのを分かってないなー。」

呆れながらも、よく恋に悩む私に色々教えてくれた。

 
「お前はそんな奴じゃないだろ。」

私が自暴自棄になりそうな時、私が悪いことを考えたり言った時はキチンと叱ってくれたりもした。
A君はそういう人だった。

 
私も親友もA君もそれぞれが他県に就職し、恋人ができたことから会うことは著しく減っていったが
それでも時々は長電話をして、メールやLINEをした。

  
 
数年前のある日だ。
A君から「今から会えない?さっき地元に帰ってきたんだ。」と連絡が入った。

私は久々の再会を喜び、一緒にファミレスに行った。
お互いに結婚願望がありつつもなかなか上手くいかなかった時期に、色々と思いをぶつけた。
就職して数年経ち、社会人の話や悩みを話したりした。
中学時代を懐かしむ話をしながらも
数年ぶりに会うA君の顔つきや話の内容から、大人になったことを改めて感じた。
私は私で、中学生のままではいられない。

 
 
ファミレスを出た時、辺りは真っ暗だった。
そんな中、A君が提案をした。

「久々にさ、中学校の通学路通ってみない?」

それは面白い、と私はすぐにその話にノッた。
A君の車に乗り、中学校時代の通学路を走った。
中学校卒業後にその道を通ることも、車で通ることも、A君と二人で通ることも、何もかもが初めてだった。
あんなに通い慣れた道なのに、夜ということもあってスリル満点だった。
二人でテンションが上がった。
同級生の家の前を通っては「アイツ何してるかな。」とA君が話し、私は私で「あの頃あんなことあったね。」と話をした。

そんな時に、暗闇に人影があった。23時を過ぎていた。こんな時間に、こんな人気がない場所で珍しい。
「まさか同級生だったりして(笑)」と笑い合いながら通り過ぎた後、A君が車を道端に停めた。

「あれ!?Bだよ、B!!」

まさかの同級生B君だった。
中学校二~三年、私達と同じクラスだったし、A君に至っては高校まで同じだ。
B君とは成人式以来、私もA君も会っていなかったし、連絡もしていなかった。

私「久しぶりだね!どうしたの!?」

B「お前らこそ、二人で夜にこんなところで何やってるんだよ!?」

最も話である。
なんせ、人気がない裏道だ。
私達も誰かに会うかな、なんて悪ノリで言いつつ、こんな時間にこんな場所に誰かいるわけがなかった。
B君は帰省途中だった。家族に駅まで迎えに来てもらう予定だったが、家族の都合がつかずに仕方なく歩いていたらしい。
B君が遠方に就職したことは噂で知っていた。

「今すぐ帰らなくてもいいだろ?これも縁だし、久々に三人で話そうぜ。」

そう言ったのはA君だ。
B君は大荷物を抱えていたし、車に乗せてもらえてラッキーと笑顔だった。

一体なんなんだろう、この展開は。

あの頃、三人で一緒に帰った事など一度もないのに、中学校時代を共にした三人が今、夜の通学路をドライブしている。
三人で妙なテンションになった。
なんだかやけにおかしくて、笑い上戸になり、色々な話をしたりもした。

A「そういやさ、昔ともかはBのこと好きだったよな。B、今彼女いなきゃ付き合っちゃえば?」

そんな時に爆弾を投下したのはA君だ。
そう、私は当時、B君が好きだったのだ。
そして恋の相談をA君にしていた。
そんな三人が大人になり、今夜ドライブしているから不思議な気分なのだ。

いきなりの爆弾投下にむせたのは私とB君だ。
Aめ………余計なことを。
だが、この話題がきっかけに、改めて三人で連絡先を交換しようという流れにはなった。
ただ、それだけだ。
あくまで好きだったのは昔であって、あれはもうきれいな思い出になったのだ。
再会しようとなんだろうと、恋にならないものはならない。

 
 
 
A君と会ったのはこれが最後だ。

二人で居酒屋に行ったり、A君の家に行ったり、こんな風に数年ぶりに再会して夜に会っても
私達は決して男女の仲にはならなかった。

キスをしたことどころか、手を繋いだことさえ一度もない。

周りや親から冷やかされようと、男友達の中で特別な関係であろうと、私達は友達の一線を最後まで超えなかった。

A君は結婚し、今は父親になった。

 

大人になって、色々な男性がいることを知った。
下心を持った男性に怖い思いをしたこともたくさんある。
好きではなくても女性を抱ける男性もいる。

恋愛はなかなか上手くいかない。
恋愛不信になったり、恋が怖い時期もあった。
だけどそんな時、私はA君を思い出す。

口が悪くて、私を異性として見ていなくて
だけど優しくて誠実で、私を女性として扱ってくれて
最後まで一切手を出さなかった人。

 
恋愛感情がなくとも女性に優しくして、しかも手を出さないことは決して当たり前なことではないと、大人になるにつれて私は思い知らされた。
口が悪くてぶっきらぼうなのは照れ隠しで、A君はA君なりに私を大切にしてくれた。

友達だからだ。

 
「男と女の間に友情は存在するか?」
そう問われたら私は話すだろう。

中学校時代から私を見守ってくれた、特別な男友達の存在を。 
 

 

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