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今ここで働く理由

中途障害の利用者に聞かれた。

「なんでここで働いているの?」

これは前の職場でも何回も聞かれたことがある。

 
健常者として生まれ
障害にも福祉にも関係ない人生を歩んでいて
むしろ学校ではリーダー的存在で交遊関係も広い。
仕事もキラキラとした
人前に立つ仕事。

 
たまたまかもしれないが
私が出会ったり、担当になった中途障害の方は
そんな方が多かった。

 
好き好んで障害者になったわけではなく
なまじ健常者として生きてきた分
できないことが増えた苦しみがある。
そして、奇声を発したり、攻撃的な人達と同じくくりの障害者になったことを
彼等はなかなか受け入れられず
先天性の障害者と距離を置いたりもする。

 
そんな中途障害の方からしたら
好き好んで障害者と関わる仕事に就く私達職員は
とても不思議な存在らしい。

 
「あなたがいるからですよ。」

 
私は笑いながら答え
利用者は照れながら、本当のことを言うようにとせがむ。

「本当、本当。」

 
私は尚も言う。

「かわいくて、素敵で、優しくて、そんなみんなと過ごしたり、一緒に仕事をするのが楽しいんですよ。」

 
そんな風に私が答えると

「なんでここなの?」と尋ねてきた。

 
たくさんある施設の中で
なんでここの施設を選んだか、という問いだ。

 
その利用者は知らないだろうけど
約12年関わりがあった施設を退職し
その後一年転職活動をした私にとって
それはシンプルでありながら
核心についたような質問だった。

 
ナンデココナノ?

それは……

「……前にも同じような、障害者施設で働いていたんですよ。だけど、朝は早いし、夜は遅いし、週6勤務もあって、段々体を壊しちゃって。

もっと自分の体を守れるところで働こう、と思って、この施設で面接受けて、施設長が採用してくださったんですよ。

朝は遅くなったのに、帰りは早くなって、土日も休みで、体調を崩さなくなりました。

それでいて、みんな…職員も利用者も優しくて、本当みんないい人で、毎日支えられています。

だから今、私はここにいるんでしょうね。」

 
話しながら
自分でも驚くほどにベラベラと気持ちが口から出た。

 
前の職場に未練がないといえば嘘になるけど
今の職場で仕事は向いていないと思っているけど
でも
これは嘘偽りない私の気持ちだ。

 
毎日毎日よく眠れてよく食べられて
よく話せてよく笑えて
休みの日は心身を休ませることができる。

 
仕事以外の時間は
友達や家族や恋人と過ごしたり
趣味を大切にすることができる。

 
それは当たり前ではない。

 
退職する一年前
私はそれができなくなった。

 
そして退職してから少しずつ心身を休め
この職場に出会った。

今も働きながらも
楽しい気持ちで過ごせる。

 
これは私にとって
とても素敵で、とてもすごいことだ。

 
 
中途障害の方は脳に障害があり
今話したことをすぐに忘れてしまう方も中にはいらっしゃる。

この方もその一人だ。

 
私と二人だけで話したこの話も
今頃はもう忘れ
またこう聞くのだろう。

「なんでここで働いているの?」

 
転職してから
もう何十回も聞かれたこの質問。

もう何十回も答えてきたこの質問。

 
例え利用者が質問したことを忘れても
私はそのたびに自分の気持ちと向き合う。

 
「真咲さんは施設で一番穏やかだよね。怒るところは想像つかない。」

転職してから
そんな風に様々な同僚からこう言われた。

 
前の職場ではみんなイライラして大声出して
罵ったり、陰口を言われたり言ったり、ぶつかったり、分かってもらえなかったり
心がグシャグシャだった。

私は毎日余裕がなかった。
イライラしていた。

 
そんな私がわずか数年で
別場所で
こんな風に言われるまでになるなんて。

 
自分でも分かる。
私は笑うことが増えた。

 
 
転職した頃
不安で怖くて逃げ出したくて
分からないことだらけ、上手くいかないことだらけだった。

 
だけど
転職して約一年半が経ち
こうして笑いながら過ごせる私と今がある。

 
今までの頑張りがなかったら
きっと今ここにいなかった。

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