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お酒では酔えない

私が初めてお酒デビューしたのは、高校卒業後にみんなで行った卒業旅行だ。

 
卒業旅行は四人で福島に行った。
友達だけでの旅行は初めての体験だ。
時代が時代だったので、本数が少ない線路でGTOごっこをし
「言いたいことも言えないこんな世の中じゃ~♪」と歌う私を
友達がカメラで撮影した。
ドラマGTOのオープニング再現である。
良い子も悪い子も決して真似してはいけません。

  
そんなこんなで観光をしながら、赤ワインを一本購入した。
四人全員が初めてのお酒だ。
温泉の後に飲もうと、布団を敷き、ご飯を食べ、これからガールズトークを始めようというところで
友達が赤ワインをあけた。
水で割った方がいいだろうと
一口飲む前から水を加えて飲んだ。
みんなで乾杯をして、グビッと飲む。

……薄い。特に美味くもなんともない。

 
全員が同じ感想を抱き、酔うこともなく、夜は更けていった。

 
それが私のアルコールデビューである。

 
 
 
 
大学に入学し、アルコールパッチテストというものを受けた。
お酒に強いか弱いかが分かるテストがあることを
私はそこで初めて知った。
それによると、私はどうやらお酒に強いらしい。
母親似の姉はお酒に弱いが
私は父親に似たらしい。
母親や姉は飲むとすぐに顔が赤くなるが、父親はお酒が好きだった。

 
 
大学生になると、とにかく飲み会があった。
大学近くには居酒屋がたくさんあり、飲む場所には困らない。
四年間で大学最寄り駅そばの居酒屋は制覇し、別の駅そばの居酒屋もどんどん開拓した。
お酒は20歳からだと言いながら、高校卒業後にアルコールデビューした私は
18歳で容赦なくアルコールを摂取した。
これぞ大学生という感じがした。
私はカシスオレンジが好きで、まずはカシオレを飲み、ファジーネーブル、カルーアミルクと続けて飲むのが定番であった。

 
私は甘いお酒しか飲めない。
それは今でも変わらない。
カクテル、赤ワイン、梅酒。
それしか飲めないのだ。

 
 
飲み会で一気飲みコールを知った。

「ともかの~!飲むとこー!見てみたーい!!」

一気飲みコールは何種類かあり
私は次々にプファーッと飲んだ。
お酒に強い子ばかりではなかったので
友達の代わりに調子に乗って飲んだりもした。

 
私はアルコールパッチテストの通り
確かにお酒に強かった。
当時は7~8杯くらい飲んでいた。
だが、酔ったことは一度もない。
飲む前も飲んだ後もテンションは変わらない。

  
 
…おかしい。 

飲んだら普通、顔がうっすら赤くなったりしてだよ、目がトローンと充血して
「私、酔ったみたーい。」とか甘え上戸になったりするもんじゃないのか。

 
なんだろう。
この可愛げのなさは。

これではただ単に甘いお酒を飲んでいるだけだ。

 

 
私の周りにはアルコールに更に更に強い人がもちろんたくさんいて

「とりあえず生!」
「梅酒ロックで!」

と注文した。
 
 
か、かっこいい………!

 
 
私はときめいた。
ビールや日本酒、焼酎をグビグビ飲める姉御肌のお姉さんに憧れを抱いた。

 
 
私は自分が中途半端だと思った。
かわいく酔えない。
かといって、かっこよく飲むこともできない。

 
 
 
18歳でお酒デビューした私は
20歳で早くも事実上の引退をした。

酔えないのがつまらなかった。

 
引退というのは
一気飲みコールや大量アルコール摂取をやめたという意味で
アルコールを全く飲まなくなった訳ではない。

 
ただ、酔えもしないし、お酒のカロリーをやたら摂取するのはバカバカしくなっただけだ。
私はもともとプライベートで自宅でお酒は飲まない。
誰かが飲む時に付き合いで1、2杯飲むことになっただけだ。
自分から「飲みたい気分だから今から居酒屋行こう!」とか「今から宅飲みしよう!」と言ったことがない。
私はいつも誘われる側だった。

 
 
若い頃は居酒屋をはしごしたし、二次会でオールでカラオケをした時代もあった。
私はそれを体験し、満足した。
二日酔いはないが、寝不足やサーカディアンリズムのズレで、飲み会の次の日は使いものにならなかった。
時間が勿体なく感じたのだ。

 
 
 
社会人は付き合いの飲み会が大変だとみんなから散々愚痴を聞かされていた私は
職場飲み会を恐れていた。

 
だが、私の職場は飲み会があまりなかった。

 
これは私の職場の長所であろう。ラッキーである。
新人なのだから取り分けやお酌を……と思ったが
どうやらそういうのはうるさくない職場らしい。
二次会もあまり積極的ではなかったし
代行では飲み会費用以上にお金がかかることから
私は職場飲み会でお酒は飲まなかった。
他の同僚もあまりお酒は飲まなかった。
女性が多い職場だからかもしれない。

 
一度、主任が家に泊めてくれると言い、初めて職場飲み会でお酒を飲んだことがある。
上司の家にお泊まりは緊張したし
まるで修学旅行のように夜通し「福祉の在り方とは!」と仕事の話に燃え
睡眠時間僅か三時間で、次の日はお互いに出勤だった。
週6勤務である。
体はボロボロで、やはり無茶な飲み会は私には合わないとつくづく実感した。

 
職場飲み会の時は、時にお酒を飲む同僚の送り迎えを担当し
大抵は一次会で帰宅した。
二次会がカラオケの時は参加した。私はカラオケが大好きなのである。

 
 
だが、職場飲み会は年々回数が激減していった。
我が職場飲み会は座席がクジ引きであり、座席はバクチである。
みんなはひたすらに、上の両脇に座ること、向かい側に座ることを恐れた。
上からのパワハラが年々ひどくなったからだ。
上は飲み会が大好きなので、企画をしないと怒り
飲み会を企画すると、みんなが不参加なので私が怒られ
参加した人は参加した人でまずい酒を飲まなきゃいけなくなり、私は文句を言われた。

 
私は2018年から職員親睦会の会長(飲み会幹事)であった。
全く、貧乏クジはいつも私だ。

 
入職当初、職員の半分くらいが参加していた飲み会は
2018年になると1/5しか参加表明しないまでに落ちぶれた。
職員親睦会会長が悪いと私は責められたが
「みんながあなたと飲みたくないんですよ。」とは言えず
私は頭を下げ続けた。
また、人手不足により、特定の職員は週6勤務や残業が増加していた。
説教される飲み会(しかも説教は飲み会が終わってからも、何日も何年も続く)に
疲れた体でわざわざ参加したくもなかった。

 
やがて、職員は仲の良い職員同士や事業別にこっそり飲み会を行うようになった。
当然の流れである。
何故こっそりかと言うと、上は職場外で職員同士が仲良くするのは「いやらしい」とのことで
それがバレるとこっぴどく怒られたからだ。
仕事上の内容であろうと、電話やLINEやメールも「いやらしい」とのことで 
例え同性同士であろうと、個人的に仲良くすることはこっぴどく怒られた。

  
仕事をするほどに怒られ
同僚同士が仲良くなるほどに怒られる。

 
それが、ブラック企業である我が施設だった。

 
 
だから、職員間で集まったり、連絡をとる時はお互いに口裏を合わせたし、信頼している人しか呼ばなかった。
今まで何回か裏切り者のユダがいたり、ひょんなことから姿を見られてしまい
上にバレて怒られたからだ。
公開処刑のごとく、朝からガミガミ怒られる姿をみんな見ていた。
どんなに仲が良くても、当事者以外には、連絡や集まったことは秘密にするのが
我が施設の暗黙のルールだった。

 
 
 
アラサーになり、飲み会は本当に減っていった。
せいぜい、少人数で多少飲むくらいだ。


周りは結婚し、子どもを産んで忙しくなったし
車社会の我が県は代行が高くついた。
かといって駅付近で飲むと、終電はなんと23時前。
これからが盛り上がるというところでお開きか
始発まで飲み明かすしかない。
社会人にとっても、家庭がある人にとっても
なかなかに難しい問題だった。

 
私はそもそもお酒に強いだけでお酒が好きなわけではない。
居酒屋でみんなとワイワイ楽しむ飲み会が好きなのである。
だから飲み会が激減したからといって
家でお酒を飲むようなことは全くなかった。

 
 
やがてプライベートでライブ仲間と仲良くなった。
お酒好きなライブ仲間がビールを飲み
その隣で私はソフトドリンクを飲みながら
ライブ打ち上げやライブ前夜祭を楽しむようになった。

 
 
 
そんな風にアラサーになり、やがて私は、条件が揃うと酔っぱらいに似た症状があらわれることを知った。 

眠気を我慢して疲れている時に電話をする。

 
どうやらこの時、私は酔っ払いのようになるらしい。
なるらしい、というのは、私も朦朧としていて
無自覚でなっているので
覚えているが、半ば覚えていないのだ。

 
私は長電話が好きで、しょっちゅう夜長電話し
「じゃあそろそろ眠いし…おやすみ~。」と電話を切ることはよくあることである。
だが、毎度毎度酔っ払いではない。

 
酔っ払いのようになるには、その他にもいくつか発動条件があるらしく
人生においてまだ5回もその状態になったことがない。
親友や元彼のように特別信頼していたり、仲が良いからといって、その状態になるわけでもなかった。
むしろ、それだけの信頼関係では
酔っ払い状態になる前にサッサと眠るのかもしれない。
家族の前でなったことも一度もない。
夜の長電話が発動条件だからだ。

 
ある程度信頼している相手で
話すのが楽しくなって
眠いけど電話を切るのもなんか寂しい。

 
そんな状態に、疲れやホルモンバランスやメンタルが組み合わさると、酔っ払い状態になるらしい。
失恋とか仕事の失敗とか、そういった大きなきっかけではないし、関係はない。
私もいまだに、正確な発動条件は分からない。
ただ、一回酔っ払い状態になると、電話を切って寝るまで元に戻らない。

 
「あんのねぇ~とぉもかちゃんねぇ~。さよならは~やーなの~。ずぅっとずぅっと、そばにね、いたいのぉ~。だぁいすきなの。すきぃぃぃ!」 

 
私の酔っ払い状態は甘えん坊の四歳児くらいになる。声色や話し方もガラッと変わり、自分の名前にちゃん付けをしたりする。
今やれと言われてもできない。
演じてわざとやっているわけではないのだ。
笑い上戸で「キャハハハー♪」となり、普段は言えないような本音を言ってしまう。
その本音は素直であり、重くもあるだろう。時折、ちょっと泣く。
面倒なことこの上ないが、何故か私の酔っ払い状態を聞いた人には好評である。
私の周りにいる皆さん、器が広いのだ。
「もっとやって。」と言われたこともある。だが、できない。
気長に夜長電話をして、たまたま私がそのモードになるのを待つしかない。
だが、人生においてまだ5回に満たないのだ。
酔っ払い状態になるのは、かなり低い確立だろう。

 
 
 
昔私は、お酒を飲んだらかわいく酔っ払える女性に憧れていた。
だけど私がかわいく酔っ払えるために必要なのはアルコールではなく、適度な睡魔と電話だった。


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