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初めてのお見合い

私が三年以上付き合っていた方から、婚約破棄を言い渡されたアラサーの時の話だ。

 
まだ悲しみが癒えない私の元へ親戚がやってきた。
その親戚は私に彼氏がいたことを知らないし、だから婚約破棄をしていたことももちろん知らない。

「もういい年なのに彼氏いないんだろ?見合いしてみないか?」

 
昔から不躾で、正直大嫌いな親戚だった。

私が小さい頃は毎朝うちにお酒を飲みに来ていて
夕方もよく遊びに来て
祖母や母に絡んでいた。

挨拶一つできない大人として、私は嫌っていた。
だけど本家の娘として、その本音を決して表に出してはいけない。
挨拶をして、お酒やおかずを運び、話しかけられた際は適当に話を合わせる。

それが私の役割だ。

 
「彼氏がいたんです。別れたばかりなだけです。」

なんて口にしたところで、何になるだろう。
バカバカしい。
過去の栄光だ。
「でも今はいないんだろ?」と笑われたらそれまでだ。
そしてこの人はそういう人だ。
ガハハガハハとお酒を飲みながら、デリカシーのないことをズバズバと言い、人の心を土足で踏みにじる人だ。

だから私は、余計なことは言わなかった。

 
「お見合い!いいじゃない。会うだけ会ってみなさいよ。ありがたいお話じゃない。ありがとうございます。」

そう言ったのは母だ。
母と親戚の元で話は進んでいく。
私はそれをぼんやり傍観していた。

 
本家の娘として生まれ、27歳になる手前にパートナーがいない私の人権はないに等しい。
私は家を存続させるために、早く新しい彼氏を作らなきゃいけない。
家を継ぐに相応しい人材を見つけなければいけない。

 
 
婚約者と別れて、二週間ぐらいの時だろうか。
元婚約者が新しい彼女と楽しく過ごしているであろうその時
私はやりたくもない見合いをするしかなかった。
世の中はこうして、誰かの笑顔の後ろで誰かが泣いて成り立つのだ。

藁にもすがるではないが
結婚するために、私は嫌いな親戚を頼るしかなかった。

 
私の初めての婚活であり、初めてのお見合いは、こうしてスタートした。 
26歳の秋だった。

 
 
親戚の話では、西日本の某国公立大卒の方で、農協に勤めているという話だった。
我が家からほど近い場所に住んでいて、2歳年上だった。

結婚相手として、条件は悪くない。

母はそう思ったし、私も同じように思った。

 
 
お見合いというと、女性は着物を着て、高級料亭の和室の部屋で仲人さんを真ん中に、両家が一列に正座をして座り、「本日はよろしくお願い致します。」と頭を下げる。
その時に庭園のししおどしがカコーンと鳴る。

そんなイメージがあった。

 
だが現実は、そんなにお堅いものどころか、至極軽いものだっだ。


   
まず、待ち合わせ場所はファミレスだった。
緊張を緩和するためにファミレスぐらいがいいだろうということだった。
ファミレスである。

いや、ファミレスは好きだけどさ…
随分と所帯染みた場所でお見合いだな………

 
私は首を傾げた。
結果論だが、その後婚活で初回からファミレスは一回もないことを記しておく。
さすが親戚クオリティだ。

 
 
しかも、両家が揃うと緊張するだろうということで、いきなり二人で会うように指示された。
まだ二人で連絡先さえ交換していない状態で、親戚が待ち合わせ日時を私とその人に伝えた形であった。

これは果たしてお見合いだろうか……

色々ツッコミどころ満載だったが、とりあえずは一回は会っておかなければいけない。
会ったら道は開けるかもしれないし、嫌なら断ればいい。

 
 
 
約束の日になり、私はファミレスの入口で待っていた。
近所のファミレスで着物を着るまでもなく、普通にワンピースを着ていた。
私の私服はワンピースやスカートだらけなので、お見合い用ではなく、ただの普段着である。

相手は私より5分遅れてきた。

「………こ、こんにち、は。初めまして。」

 
俯きながら私にオドオドと声をかけたその人は、かわいそうなくらいひどく緊張していた。
これは私がリードすべきだな。

 
「初めまして。こんにちは。真咲です。今日はお忙しい中、遠い場所まで来ていただいてありがとうございます。」

私は微笑みながら言った。我ながら、ビジネス用の私だと思った。

 
 
私は扉を開け、お店に入るように彼を促した。
私が窓際の席を指定し、注文の後、「まずは先にドリンクバーで飲み物をとってきていいですよ。」と伝えた。
その人は言われるままに、オドオドしながらドリンクバーに行った。
ビジネス用の私であり、なんなら男役が私ではないかと錯覚した。

 
相手は緊張のあまり、ドリンクや水を派手にこぼした。
謝る相手を横目に、私はちゃっちゃちゃっちゃと店員さんと共にテーブルを拭いた。
利用者がよく飲み物をこぼす。こういった場面にはよく慣れていた。

 
 
注文した料理が届き、ご飯を食べながらトークタイムになった。
大人しそうな性格で、青いチェックのシャツを着て、ジーパンを履いていた。

私「○○さん(親戚)から、国公立大卒業とお聞きしました。専攻はなんだったんですか?」

彼「あ………実は、中退してて…」

 
…………ん?

 
 
私「農協にお勤めと聞きました。うちも兼業農業なんで、いつも農協にはお世話になっています。」 

彼「あ、あの………ガソリンスタンドで働いているんですよ。」

 
…………………んん!?

 
私「そうだったんですね。昔は農協だったんですか?」

彼「色々な所、転々としてるけど、の、農協はないです。い、今は何年も非正規で働いています。」 

 
 
…………………………んんん!?!?

 
 
お、おい親戚…
話が違う………話が違うぞ。さすがあの人だ。情報がだいぶ違う。
まぁとりあえず、学歴や現在の状況は把握した。
さて、趣味はどうだろう?

私「休日はどんなことをして過ごしますか?」

 
彼「特には…。」

 

私「仕事忙しいと、休日は家事をしたり、ゆっくり過ごしているうちに一日終わっちゃいますよね。
好きなアーティストはいますか?」
  
 
彼「○○とか…。」

 
私「私も大好きです!ライブにも行ったことあります!特に好きな曲ありますか?」

彼「●●とか………●●●とか。」 

 
 
…………有名なシングル曲のみ……か。
好きなアーティストっていうから、アルバムくらいチェックしていると期待してしまった。

 
 
 
ご飯を食べながら2時間くらい話して、お開きになった。
初回はそれぐらいで切り上げるように親から助言があったからだ。
会計は各自だった。
年上の方と見合い?なら、驕りだと思ったが、まぁそんなものか。

 
のちに私は、婚活初回デートで驕らない人はケチなのではなく、恋愛経験がなかったり、人付き合いがあまり得意ではない人の確立が高いことを知る。

 
 
「あ、あの、連絡先、聞いてもいいですか?」

 
終始私のペースだったが、帰り際に彼はそう言った。誰かに助言をもらったのだろうか。
最後の最後に勇気を出したんだなぁと感じた。

 
 
 
私は家に帰ってから母親に怒りをぶつけた。

私「ちょっと!国公立大卒で農協じゃなかったよ!?中退しててガソリンスタンド非正規で、しかも職を転々としているらしいんだけど!!」

 
母「中退?じゃあ最終学歴は高卒?」

 
私「正職員じゃないなら、この話は断っていいよね?」

 
母「そうねぇ………どんな仕事でもいいから正職員じゃないとね…。」

 
そう、母親からの結婚相手の条件は正職員だった。
私も同様だ。
信念が感じられない人だった。
大学を中退し、職を転々とし、趣味や生きがいがないという印象を感じた私は
その人に魅力を感じなかった。
悪い人ではなかった。ただ、それだけだ。

 
母とそんなやり取りをしている時に親戚が来て、釣書と呼ばれる、相手の経歴が書いてある紙を今更に持ってきた。
そこには確かに学歴や職歴が書いてあった。
さ、最初からそれを会う前に見せてもらっていたら……私は怒りでプルプル震えた。

親戚「よぉ。どうだった?男できたか?」

 
私は面倒だったので母親に対応を任せ、自分の部屋に引きこもった。
今日のお礼を彼にLINEし、彼からもそれに対してLINEが来た。
そして、LINEはそこで途切れた。

 
相手は私を気に入ったようだと親戚経由で話が来たが
私はその人と付き合いたいとは思えなかった。

 
 
 
それから5年後くらいだろうか。

「お久しぶりです。どこかでお茶でもしませんか?」

私の元にLINEが届いた。

 
………誰だろう?

 
機種変をした際、過去のトークは全て消えてしまった。過去のLINEのやり取りは残っていなかった。
LINE登録者数は約300人いる。
なんせ5年前に2~3回やり取りをしただけだ。登録名だけでは印象が薄かった。

でも多分……あの初めての見合いの人………だよな?

 
私がそう思ったのは、画像が例の好きなアーティストだったからだ。 

 
 
 
こんな形で、一度、もしくは数えるほどしか会っていない婚活相手から、数年後にいきなり連絡が来ることがたびたびあった。

よっぽど誰でもいいから結婚したいのか、思い出や私が美化されているのか分からないが
私が顔と名前が一致しない人から、数年ぶりにデートに誘われるのはひどく奇妙だった。

 
 
時が流れ、変わることや変わらないことを抱えながら今日も生きている。
あの頃と変わらないもの。

それは私が今でもその好きなアーティストの曲を好み、毎日聴いていることだ。




 

 
  

 


 





 
 


 




 


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