見出し画像

自信をなくす日

その日はポスティング作業で、とある利用者とペアだった。
 
その利用者は職員が誰であろうとポスティング前にぐずるのだが
私がペアの時は大抵激しく
私のやり方が悪いのだろうかと自信をなくす。

 
他のグループがどんどん出発しているのに
行きたくない、やりたくないとギャーギャー暴れて泣いている。

「だったらやらなくていいんじゃない?」

と、内心思いつつ
冷静に対応しようとする。

 
同僚Bさんがトイレ誘導を手伝ってくれ(Aさんは出発前にトイレに行かないと失禁率が上がる)
リーダーは「午前中に終わらなくても午後があるから。」と言った。
つまり、このままグダグダして行けなくても、行くのが遅れても大丈夫、とのことだ。

 
施設長はスルーした。

このやろう、と内心思った。

 
結局、出発までは40分かかった。

同僚Cさんが見かねて別室から来て
助けてくれた。
他の同僚の言うことは聞くくせに、と内心腹が立ったし
そんなに私は力がないのか…と悲しくもなる。

 
前の職場ならば
私は今の職場の倍の人数の利用者をまとめた責任者で
不穏な利用者は私の言動により落ち着いてきたというのに 
なんと情けない。

 
いや
昔は私が責任者だったから力があっただけなのか。
今は所詮新人職員だし
女性職員でもあるから
なめられるというのもあるだろう。

 
あぁ…そうだ。

だからこそ施設長がスルーしたのが腹立たしいのだ。

 
ポスティングに行ったものの
ワァワァ泣きながら利用者が歩く。

周りの方からはさぞ
私が苛めたように見えるだろう。

 
他グループから遅れて出発したし
なかなか泣き止まないしで
どうしたって苛々してしまう。

 
なんとか時間内に配り終わった。

Bさんが、「ポスティング大丈夫だった?」と戻ってから声をかけてくれた。
ありがたかった。

 
 
午後の作業は13:00開始で
その時に施設長が作業の振り分けをする。
その日は13:30になって作業の振り分けをした為
利用者も職員も手持ち無沙汰だった。

 
私はビーズでの製品作りを任され
Aさんを含む三人の利用者を見ることになった。

 
その作業は一年ぶりだった為
私はテキパキとはできなかった。
リーダーが改めてやり方を教えてくれた。

Aさんは不器用でせっかちで
やる気はあるが手元がよく狂い
私はマンツーマンを余儀なくされた。
他の二人は私がいなくてもある程度できる為
たまにチラ見する程度だった。
現に、ちょっと他の利用者の様子を見に行くと
近くにあるビーズをいじってしまう。待つことが苦手なのだ。

 
そんな中、だいぶ仕上がってきたところで
施設長がやってきた。

「真咲さん、他の利用者の様子も見なきゃ。ほら、終わってるわよ。」

…終わっているならば
気づいたならば
施設長が手伝ってくれたらいいのに。

 
そう内心思いつつ
他の利用者の様子を見た。
施設長は言うだけ言って立ち去っていた。

私が施設長の言う通りにした結果
Aさんは苛立ち
それまで作った製品をバラバラにし
ビーズを投げた。

 
おそらく、やる気に満ちている時に
邪魔をされたからだろう。

ただでさえこの日は、作業開始まで30分待たされている。

 
午前中と同じように
ギャーギャー騒ぎ
他者のビーズ製品さえ邪魔しだした。

心底、げんなりした。

リーダーは自分達の作業を中断し
Aさんに色々言ってくれた。
それにより、Aさんは徐々に落ち着きを取り戻した。

 
やっぱり私じゃダメなんだ……

と、落ち込んでしまう。

 
それからもリーダーはちょこちょこ様子を見に来たり、手伝ってくれたし
利用者さえも私に質問ではなく
リーダーを頼る姿さえ見られた。

作業中に、泣きそうになった。

 
帰りの送迎をしようとしたら
送迎車の近くにお客様の車が停まっていて出にくかった。

どうしよう…

と内心思っていると
リーダーが「車出すなら、こういう風な動きをしてあそこに出した方がいいけど、できそうですか?僕がやりましょうか?」と言ってくれた。

…ありがたかったけど
また我慢していた涙が出そうになった。

 
なんとか堪え、送迎に行ったが
帰り道は泣けてきた。

 
 
私はここの仕事に向いてない。 
なんにもできない。
利用者を上手く導くこともできないし
施設長はどうせ私を何もできないと思って見下しているだろうし…
と思えると、悲しくて悔しかった。

 
前の職場ならば、私を見てもらえた。

褒めてもらえた。
求められたし
私も求めた。

 
だけど
私はここでは代わりのきく存在でしかない。

 
 
送迎から戻ってくると
まだお客様がいて車が上手く駐車場に停められなかった。
ハザードをたいて一旦車から出たら
目の前には同僚Dさんがいて「駐車しておきますよ。」と言われた。

その優しさにまた泣きそうになった。

 
嬉しくて、というより
自分にできることがたかが知れてて
複雑という意味でだ。

 
 
私は戻ってきてから
個室で仕事をしていた。
一人になると、やっぱり泣けてくる。

遠くでは同僚同士の笑顔や談笑が聞こえてきて
私は一人ぼっちのような気分になった。

 
このまま一人で帰りたかったが
終礼をしないわけにはいかない。

口数少ない私とは対照的にみんなはよくしゃべるし
よく笑った。

マスクをする世の中でよかった。
私は今日はみんなに素顔を見られたくない。
心が読まれそうだから。

 
そんな私の気持ちとは裏腹に
みんなで一斉に帰ることになった。
一人で帰れるような適当な理由も見当たらなかった。

駐車場までみんなで歩く。

リーダー、Bさん、Cさんと正職員のみんなで帰る。
みんなで何気ないことを話す。
今日私がどんな気持ちだったかは言えなかったので別の仕事の話をした。施設長に言われた別の無茶ぶりの話だった。

 
すると、三人が親身になって話を聞いてくれてアドバイスをしてくれた。
あぁでもないこうでもないとみんなで話している内に
確かに心は軽くなっていった。

 
あぁ、みんな優しいなぁ。
みんな、色々できてすごいなぁ。

私はみんなと違って今の職場のやり方や業務内容は向いていないけど
あとどれだけ頑張れば
いちいち施設長から言われなくてすむのだろうか。

 
仕事で落ち込んだり、腹立たしい時は
大抵施設長が絡んでいる。

気が合わないと思うし
なんで私を採用したのだろうといまだによく思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?