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税理士の先生が知っておきたい雇用をめぐる最近の法律問題 #10 育児休業(3)

 「働き方改革」といった言葉で表された一連の労働法規制の改正が行われてから数年、雇用関係をめぐっては続々と変化が現れてきています。
 この連載では税理士の先生方にもぜひ知っておいていただきたい、最近の雇用をめぐる法律問題をご紹介していきたいと思います。 
 今回は前回と前々回でご紹介した育児休業に関連したハラスメントの事例についてご紹介します。


1 マタハラ・パタハラ

 最近はいろいろな事例がハラスメントとして類型化されていますが、出産や育児に関するハラスメントを表す言葉があります。マタニティハラスメント(略して「マタハラ」と呼ばれます)やパタニティハラスメント(略して「パタハラ」と呼ばれます)というものです。
 
 マタハラとは、妊娠・出産・育児に関して、女性労働者が職場で受ける不当な取扱いや嫌がらせのことをさします。
 パタハラとは、男性労働者が育児休暇の取得を希望したり、現実に取得したことに対する嫌がらせのことをさします。
 これらの言葉自体が用語として定義されているわけではありませんが、法律の中でもこれらの行為を規制する規程は設けられています。

2 法規制

(1)男女雇用機会均等法

 男女雇用機会均等法9条3項では次のように定められています。

 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、(略)その他の妊娠又 は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 この法律の定めを受け、厚生労働省令では、次のような事項が妊娠・出産に関する事由として定められています。

  • 妊娠、出産したこと。

  • 産前休業を請求し、若しくは産前休業をしたこと又は産後の就業制限の規定により就業できず、若しくは産後休業をしたこと。

  • 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)を求め、又は当該措置を受けたこと。

  • 軽易な業務への転換を請求し、又は軽易な業務に転換したこと。

  • 妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したこと。

  • 時間外労働や深夜労働をしないことを請求したこと又はこれらの労働をしなかったこと。

  • 育児時間の請求をし、又は育児時間を取得したこと。

(2)育児介護休業法

 育児介護休業方法10条では次のように定められています。

 事業主は、労働者が育児休業の申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 また、育児休業の他、介護休業、子の看護休暇、介護休暇、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限、所定労働時間の短縮等の措置について申出をし、又は制度を利用したことを理由とする解雇その他不利益な取扱いについても明文で禁止されています。

(3)不利益な取り扱いとは

 雇用機会均等法や育児介護休業法で禁止される不利益な取り扱いの例としては次のようなものが規定されています。

  • 解雇することや期間を定めて雇用される者について、

  • 契約の更新をしないこと。

  • 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規雇用社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。

  • 降格させること。

  • 不利益な自宅待機を命ずること。

  • 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。

  • 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。

  • 不利益な配置の変更を行うこと。

3 まとめ

 以上のように、出産や育児に関する制度に関して不利益な取り扱いを行うことは法律で禁止されています。
 もっとも、妊娠・出産に関して特別な取り扱いが一切許されないわけではありません。
 次回は出産に伴う不利益な取り扱いに当たるか否かが争いとなった事例をご紹介したいと思います。

【執筆者プロフィール】
弁護士 高井 重憲(たかい しげのり)
ホライズンパートナーズ法律事務所
平成16年 弁護士登録。
『税理士のための会社法務マニュアル』『裁判員制度と企業対応』『知らなかったでは済まされない!税理士事務所の集客・営業活動をめぐる法的トラブルQ&A』(すべて第一法規) 等、数々の執筆・講演を行い精力的に活躍中。

第一法規「税理士のためのメールマガジン」2023年10月号より

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