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【弁護士が解説】税理士が知っておきたい!雇用をめぐる最近の法律問題#2 労働時間②

「働き方改革」といった言葉で表された一連の労働法規制の改正が行われてから数年、雇用関係をめぐっては続々と変化が現れてきています。

この連載では税理士の先生方にもぜひ知っておいていただきたい、最近の雇用をめぐる法律問題をご紹介していきたいと思います。

今回は前回に引き続き労働時間についてです。

1 残業代トラブルの実例

最近、未払い残業代をめぐるトラブルは確実に増加しており、今年の4月からは月60時間を超える時間外労働についての割増率が、中小企業についても50%以上に上がることから、より大きなトラブルになることも予想されます。

そんな中、最近では悪質な請求と思われるケースも確実に増加してきていますので注意が必要です。だらだら残業などで労働時間を水増しして、あとになってから高額の残業代を請求したりするケースです。

例えば、終業時間になって、特になにか仕事をしている様子もないのに職場内に残ってスマホでゲームをしていたような従業員が残業代を請求してきたようなケースもありました。

そこまで露骨でなくても、例えば朝9時が始業時刻なのに、毎日1時間以上前から職場に来て、コーヒーでも飲みながらネット記事を読んでいたりした従業員が、出社時からの残業代を請求してくる といったケースもあります。

こういったケースでは、労働者側は出社したり退社した時刻がわかる証拠を確保して請求をしてきたりします。例えば出勤時、退勤時に毎日メールを送ったり、写真を撮ったりという形で簡単に記録が残せますし、最近ではスマホの位置情報を使ってアプリで自動的に記録されたりするものもあります。

実際に働いた時間に対して賃金を払うならばまだしも、こんなケースで支払いを余儀なくされるのは絶対に避けるべきところです。

2 労働時間を管理する


ただ、実際に争いになった場合、ある程度労働者から証拠が出されると、会社側で適切な反論ができない限りは請求された労働時間が認められてしまう可能性は高いのが現実です。

これは、一般に使用者側には労働者の労働時間を管理する義務があると考えられているためです。

例えば社内には残っていたが遊んでいただけで仕事はしていない、といった反論は、極端に言えば何時から何時の間遊んでいたか、を特定しないと認められない可能性が高いです。

トラブルを避けるために適切な労働時間管理を行うことは非常に重要です。

3 具体的にやるべきことは?


もっとも、適切な労働時間管理といってもそこまで難しいものではありません。まずは何時に来て何時に退社したかを把握することが第一歩です。

これはタイムカードなどで客観的に記録できるものの方が好ましいといえます。自己申告ですと、どうしても実態と違うという請求を受けやすくなるためです。タイムカードが押されている時間以上に働いていた、という請求をされるケースもありますが、その場合にはタイムカードと労働者の言い分とどちらが正しいのか、という争いをすることが可能になります。

その上で、タイムカードの打刻時間と、実際の時間にずれがないか、は定期的にチェックするべきところです。

例えば18時半に打刻はされていても、実際は19時半まで職場に残っていた、というケースだと、残っていた証拠を出されるとその時間が認められてしまう可能性があります。

おかしな居残りや早く来ているものがないか、についてはある程度定期的に確認をし、不自然な場合には退社を指導し、その指導をした記録を残しておくといった対応が求められます。

まずは労働時間については正しく管理をする、ということが出発点です。これまで行えていない場合にはぜひ意識していただければと思います。

次回は引き続き労働時間についてです。

【執筆者プロフィール】
弁護士 高井 重憲(たかい しげのり)
ホライズンパートナーズ法律事務所
平成16年 弁護士登録。
『税理士のための会社法務マニュアル』『裁判員制度と企業対応』『知らなかったでは済まされない!税理士事務所の集客・営業活動をめぐる法的トラブルQ&A』(すべて第一法規) 等、数々の執筆・講演を行い精力的に活躍中。

第一法規「税理士のためのメールマガジン」2023年2月号より

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