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写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用

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2022年に執筆した論文『写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 』を章ごとに連載しています。友人の死から写真の意味を考察することに始まり、数人の写真家や社会評…
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#写真論

【♯1】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ はじめに / 研究の目的

【♯1】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ はじめに / 研究の目的

はじめに 
 私は5年前の親友の死をきっかけに写真についてよく考えるようになった。彼女が死んだことを知ったとき、彼女が写った写真はいつも見ている他の写真とは全く違う意味を帯びていた。私は写真の中に彼女の声や仕草、彼女との時間など存在そのものを投影していた。その時私はこの自分の感覚に違和感を覚えた。それは実際には彼女ではない写真という単なる「像」に彼女の存在を見出していることへの違和感だった。私が見

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【♯6】  写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第3章 ベンヤミンの歴史観と場所性】 -1

【♯6】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第3章 ベンヤミンの歴史観と場所性】 -1

第3章 ベンヤミンの歴史観と場所性  ここで示した「写真の場所性」に対する私の見解は、ヴァルター・ベンヤミンが彼の著書、『歴史の概念について』*15)などで著した彼独自の唯物史観などの歴史観、時間観念に大きく影響を受けて形成された。そこで語られているベンヤミンの時間に関わる見解は、“写真の中に堆積した時間が保存される”という私の意見を補強し、大きく飛躍させた。

 実際、写真に関してはベンヤミンも

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【♯7】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第3章 ベンヤミンの歴史観と場所性】 -2

【♯7】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第3章 ベンヤミンの歴史観と場所性】 -2

3 - 2 ベンヤミンの史的唯物論と写真の場所性

 ベンヤミンやバルトの写真論の中では、彼ら独自の写真論を展開させる際に時間や生死といったキーワードが関連してくる。これまでの私の論でも、一人の人間の生死から写真を考えることを通して時間や歴史まで考察を伸ばしてきた。ここでは特にベンヤミンが著した歴史観や時間概念や、バルトの写真論などを通して私の主張する「写真の場所性」と、写真が持つTimescap

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【♯8】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第4章 写真と記念碑】 -1,2,3

【♯8】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第4章 写真と記念碑】 -1,2,3

第4章 写真と記念碑4 - 1 ヴァルターベンヤミンの墓標

 写真の場所性とベンヤミンの歴史観の関係をさらに深く考察するために、マイケル・タウシグ*の著書『ヴァルター・ベンヤミンの墓標』*21)第1章を一つを手がかりとして考えてみる。第1章ヴァルター・ベンヤミンの墓標は、文化人類学者マイケル・タウシグがベンヤミンの墓標を探すため、彼が1940年に自死を遂げたスペイン、カタルーニャ地方及びピレネー

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【♯9】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第4章 写真と記念碑】 -4

【♯9】 写真の場所性と記念碑性についての考察及び歴史伝承への応用 ━ 【第4章 写真と記念碑】 -4

4 - 4 他作品から考える風景の保存

4 - 4 - 1 ベアトリス・ゴンザレス『無名のオーラ』

場所を作品として保存した例として、ベアトリス・ゴンザレス *『無名のオーラ』を取 り上げる。この作品は、70 年前に建造され 2003 年に取り壊しが決まったコロンビアの ボゴタ中央墓地を、記憶の共有場所として保存する取り組みである『Lugar de memoria(記憶の場所)』というプロジェ

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