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『大学入試がわかる本-改革を議論するための基礎知識』

戦後最大級の入試改革と謳われたセンター試験に代わる新たな共通テストの目玉だった「英語民間試験、記述式問題、主体性評価のための情報システム」が見送られ大きな混迷をもたらしました。


なぜ改革はとん挫してしまったのか?


昨今の入試改革について、「一見未来を志向しているように見えながら、実は50年前の大学入試批判とさして変わらないアナログニズムを感じる」と述べている本があります。



今回紹介する本は、18名もの著者からなるオムニバス形式で東京大学大学院教育学研究科教授の中村高康さんが編集された、こちらの書籍です。



中村高康【編】『大学入試がわかる本-改革を議論するための基礎知識』(岩波書店/2020年9月26日)



著書は、これまでの大学入試制度を考えるために必要な基本領域として、「歴史と現状」「試験選抜方法」「高大接続」「多様な入試制度」の点から大学入試全体における基本的な問題点を理解することによって正常な議論ができる土台をつくることを目的として書かれた本です。



本書は、以下の4部構成から成っています。



Ⅰ.歴史と現状

Ⅱ.試験選抜と選抜の在り方

Ⅲ.高校から大学へ

Ⅳ.多様な入試



この本の冒頭で著者は、共通テストの目玉政策だった3プラン全てがとん挫した理由を、学力の三要素に代表されるような机上の理念を制度に直接反映させようとしすぎた結果、現実との乖離がはなはだしくなってしまったという面が多分にある、と指摘しています。



したがって、専門家や教育現場の知見・意見を十分に理解せず、政治的な圧力によって改革が進められることになってしまった一方で、途中段階まで改革に対するブレーキをかけきれなかったり、あるいは問題を問題とすら理解せず暴走を許してしまっていた環境を我々がつくってしまっていた、とも述べています。



つまり、改革の失敗を国にばかり帰責するのではなく、正確な知識をもってさえいれば理解した上で受け入れる、あるいは健全な批判といった議論ができるのではないか、ということのようです。



前半では、現在の大学入試制度を構想するにあたり、大学入試選抜をめぐる歴史をふまえるが必要がある、と指摘しています。著者らが提唱するポイントは以下の通りです。


◇戦前:学校間格差問題など当時から入試制度改革は失敗続きだった
 ↓

◇戦後:GHQからの勧告を受け始まった共通テスト「進学適性検査」
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◇バブル期:経済と教育を連動させようとした「能力開発研究所テスト」
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◇受験戦争期:一発勝負式で熾烈な受験競争が勃発「共通一次試験」
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◇緩和期:受験機会を複数化した「大学入試センター試験」への改編
 ↓
◇そして「大学入学共通テスト」へ


入試改革は、世論や政策といった意図が振り子のように互いに圧力を掛けあうことで変革を遂げてきたことから、日本の入試改革は「建設と破壊」というより「回転ドア政策」とも呼べるのではないだろうか、と著者は述べています。



中盤では、2024年には高校の全学年で実施となる学習指導要領について、大学と高校の両者における教育課程との関係を考察しています。著者らが提唱するポイントは以下の通りです。



◇学力の三要素を核とした「三位一体の改革」

◇今後も求められる「9月入学の議論」

◇求められる「公平性」

◇高大接続の特質は「2つの異質な教育課程の接合」



高大接続改革の目的は政策立案者による願望も含まれていること、さらに高大接続の役割は同質の教育目標を求めるのではなく、異質な文化が衝突することで刺激と閃きをもたらすような教育連携が望ましいのではないかと説明していました。



本の終盤では、障害のある方への合理的配慮のほか、スポーツ推薦、美大受験についても触れています。著者らが提唱するポイントは以下の通りです。



◇公平性の追求は障害のある方に対し「参加不可能の障壁」にもなりうる

◇スポーツ推薦は入試難易度との関連もある一方で「一枚岩ではない」

◇芸大入試は「一般入試=学力選抜」ではなく、専門教育に適した人材選抜




著者が18名とオムニバス形式でありながら、理路整然とした内容で腑に落ちる内容となっていました。私自身、入試改革について知らなかったわけではなかったですが、別セクションであることのほか、いわゆる御上(政府)が主導なら仕方ないかといったどこか他力本願でいました。



著書を読んだことで歴史と現状を知ることができ、高大連携先である高校側とも健全な議論がしたいと思うようになりました。



また、今回の入試改革の失敗は「公平性」を追求しすぎた結果であるという視点で論じている以下の書籍もあります。




現役の大学教職員のほか、高校の先生や企業の方々も本書を読んで、入試改革の歴史から今後の方向性を考え、入試改革における基礎知識を得た上で健康的な議論に参加してみませんか。

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