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第4回 エジプトでの遺跡調査、発掘されたばかりのミイラを実見

展覧会をもっと楽しむ!“骨のエキスパート”坂上和弘先生インタビュー(全5回)

坂上先生は、本展のもう1人の監修者、河合望・金沢大学教授が隊長を務めるエジプト・カイロ郊外のサッカラ遺跡の発掘調査隊の一員でもあります。現地ではどのような調査が行われているのでしょうか。
取材・構成:渡辺鮎美(朝日新聞メディアプロダクション)

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坂上 和弘(さかうえ かずひろ)先生 プロフィール
国立科学博物館 人類研究部 人類史研究グループ長。専門は自然人類学・法医人類学。先史時代から現代までの人骨やミイラが研究対象。

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エジプト・北サッカラの調査地付近から撮影したエジプトの遠景(写真はいずれも坂上先生提供)

――サッカラ遺跡での調査について聞かせてください。

現地には、考古学のほかにも様々なジャンルの研究者が入っていて、僕もそのうちの1人として参加しています。2017年から毎年訪れていて、最後に訪れたのが2019年の秋でした。

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サッカラ遺跡での調査の様子

――海外での苦労はありますか。

外国の地に日本から調査隊が入って発掘をするためには、現地で人手を集めたり、行政と交渉したりしながら進める必要があって、そこが一番の苦労だと思います。

特にエジプトなど、アラブ諸国に関しては、情勢不安で突然現地に行けなくなることも経験していますし、政権交代で行政の担当者ががらっと変わってしまって、築いた関係がゼロになってしまうこともあります。そういったことをクリアしながら調査を継続していくのは、並大抵のことではありません。すべて河合望先生が進めていらっしゃる。僕はありがたく、ついて行かせてもらっているという感じで……。つまり、ほとんど苦労していません(笑)。

――1回の調査で滞在期間は?

だいたい2週間から3週間。いつも時間が足りないと感じています。

――その間にやることを教えてください。

まず現地に入ると、出土した骨などの標本が、まだ砂や泥にまみれた状態で集められています。それをクリーニングして、骨の壊れた部分を修復するところから始まります。骨も当然ばらばらになっているので、元の形に戻して、1体分あるかどうかも、そろえながら確認していきます。

クリーニングが終わると1体分の骨を並べ、足りない部位があるかなどを調べながら、同時に年齢や性別、身長なども読み取ります。最後に写真を撮って計測するのですが、調べる項目は1体につき200から500ほど、それをすべて測って記入していきます。この作業の繰り返しですが、とにかく毎回時間が足りなくて――。

ミイラの場合は、保存状態を維持してきれいな形を残すにはどういった方式をとればいいのかを考えつつ、同時に包帯の巻き方や内臓の取り方も、できる限り調査して記録していきます。

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一部ミイラ化した遺体が出土した直後の様子

――記憶に残るエピソードを教えてください。

新たなミイラの発見に立ち会えたことが印象的でした。今回展示される大英博物館所蔵のミイラは身分の高い人たちですが、サッカラ遺跡で発掘されたミイラはその状態から、それほど身分は高くはない、と考えられる人のミイラだったのです。

というのも、ミイラは作り方や遺体に施す処置など、製作者のテクニックによって様々な状態のものが存在しています。サッカラのものはかなり「チープな」作りのミイラでした。もちろん、知識としては知っていたのですが、実物を目の前にして古代エジプトのミイラ作りの痕跡を見てとれたことは、とても有意義な経験でした。

コロナ禍で現地での調査が中断してしまっているので、再訪できる日が待ち遠しいです。

(第5回につづきます)

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特別展「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」

会期:2021年10月14日(木)~2022年1月12日(水)
会場:国立科学博物館(東京・上野公園)
※会期等は変更になる場合がございます。
※開館時間、休館日、入場料、入場方法等の詳細は決定次第、公式サイトでお知らせします。

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