見出し画像

あい色の命綱

「はぁ、はぁ、はぁ…大丈夫か? カズコ…」

「ヘイゾウ…」

若い男と女は特大のピンチを迎えていた。
事件が起き、それを解決しようとし、なんやかんやあって爆発に巻き込まれ、今、特大のピンチだ。

男は片手で断崖絶壁から生えた木を掴み、もう一方の手は女の手を握り締めている。
女も片方の手は男の手を握り締めてはいるものの、もう一方の手と体は宙に舞っている。

「カズコ…絶対離したらあかんで…」

「でも…ヘイゾウ…」

木がミシミシと音を立てて軋む。
細体とはいえ男女の体重を支えるにはこの木では心許ない。折れるのは時間の問題だ。

「ヘイゾウ! このままじゃヘイゾウまで落ちてまう! 下は川だから、落ちても平気かも知れへん! 手ぇ離して! ウチが落ちれば木も耐えられるやろ!」

「アホ! この高さから落ちたら水面もコンクリのようにかとうなる! 絶対離すなよ! この手ぇ離したら…殺すで。」


断崖の突風が女の体を揺らし、それに合わせるように木が大きく撓る。

「…ヘイゾウ? ウチ、ヘイゾウにずっと言えなかったことがあってん。」

「…なんやカズコ、急に。」

「少しだから聞いてくれる?」

「せやかてカズコ、今はどうやったら助かるかを考えんと…せや! おれのジャケットのポケットに携帯が入っとる! それで江藤に電話して助けを! カズコ、空いとる方の手で携帯とれるか?」

こんな大ピンチでは携帯を取りにくいボタン付きのポケット


「ウチもうそんな力残ってへんよ…だからヘイゾウ…聞いて。ずっと言えなかったことあってんけど…こんな時に言うのズルいやろ…せやから…」

「カズコ…やめろ…離したら殺す言うたやろ!」

「私の分まで、長生きしてな…」

固く握り締めていた女の手がゆっくり解ける。

「カッ! カズコォォォォォ!! …て、あれ?」

「…あれ? ヘイゾウの手離したんやけど、なんかもう一個掴めるとこあってん…ヘイゾウのジャケットの裾…」

こんな大ピンチでも掴みやすい裾のビロビロ


「おっ、おぉ…良かった。よっしゃカズコ、もう少し辛抱せぇよ。片手空いたらもう大丈夫や、すぐに上まで登ったる。」



ーーー・・・



「はぁ、はぁ、はぁ…大丈夫か? カズコ…」

「ヘイゾウ…ありがと…なんとか助かったね。」

「カズコもっと痩せなあかんで、重いったらありゃへん。」

「はぁ? ヘイゾウがもっと鍛えればええやん!」

「…カズコ。ずっと言えなかったことあるゆうてたやん…あれなんやってん?」

「…言ってへん。」

「はぁ?」

「そんなこと言ってへん! ヘイゾウなに言ってんの!」

「お前ズルいやろ! おいっ、聞かせろやっ!」







二人を救ったデニムジャケットはコチラ




結果的に助かったとはいえ、誰かの為に自分の命を犠牲にしようとするとは。大きな大きな愛がなければ出来ない行為だ。まだまだ若いのにもう何十年も連れ添ったような信頼関係、二人の夫婦漫才をいつまでも見守り続けたいと私は思う。
しかし私はこの作者のやり方が大嫌いだ。
どうやら作者は洋服の製造販売を行っており、このデニムジャケットも販売しているようだ。
某人気アニメのパロディという形で自分の商品を宣伝する狡猾なやり口に反吐が出そうである。
しかし、昨今の大きなスマートフォンもスッポリ入る大容量のポケットや、女性がぶら下がっても破れないほど耐久性の高い生地。この素晴らしいデニムジャケットを是非私も購入したいものである。

アニメ研究協会副理事長  出似無 好太郎



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?