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クリスの物語(改)Ⅳ 第26話 アパルタメント

 ダニエーレたちのアジトは、アパートの地下にあった。
 そのアパートは、やはり昨日ホロロムルスの信号が途絶えた付近の路地にあった。

 運転手はハーディの指示に従って、路上駐車する車の列に4WDを割り込ませた。
 そして一行は、アパートに入っていくダニエーレの後を車中からホロロムルスで追いかけた。

 4階建ての古いアパートで、各フロア真ん中の階段を挟んで左右に2つずつ部屋が並んでいる。
 その1階の左端の部屋に、ダニエーレは入っていった。

 玄関を入ってすぐ3畳ほどのキッチンがあり、左手にはシャワールームとトイレがあった。キッチンのシンクには食器が乱雑に積まれ、脇に置かれた小さな冷蔵庫とその上に乗った電子レンジは、どちらも古く汚れがこびりついていた。
 タイル張りの床も真っ黒で、所狭しとごみ袋が積まれている。

 キッチンの奥に進むと、カバーがボロボロに破けてスポンジがむき出しになったソファにひとりの少年が座っていた。
 少年はソファにふんぞり返って、テレビを見ながらタバコをふかしている。

 マルコ・リッチ。16歳。財布を盗んだ少年だ。
 パーマのかかった黒髪をツーブロックに刈り上げ、彫の深い顔立ちをしたマルコは、年齢よりもいくらか大人びて見える。

「おう。遅かったな。じゃあ、行くか」
 ダニエーレに気づくと、マルコは吸い殻でいっぱいになった灰皿にタバコをねじ込んだ。
 灰皿の載ったテーブルは、ごみや空き缶で埋め尽くされていた。

 マルコは立ち上がって、奥の部屋へと移動した。その後にダニエーレが続き、ホロロムルスの視点がさらにその後を追った。
 奥の部屋は、8畳ほどの寝室だった。壁際に古びた大きなベッドが置かれ、その上には脱ぎ散らかした服が積まれていた。床にも、服や靴が散乱している。

 そのベッドの左手にある大きなクローゼットを、マルコが開けた。
 クローゼットには、シャツやジャケットが掛けられていた。そしてその床には、床下収納の扉のような真四角の蓋が置かれていた。

 マルコはしゃがんでその蓋をどけた。そこには、地下へと下りる梯子が下がっていた。
 マルコは手慣れた様子で梯子を下りた。ダニエーレは不安そうにうしろを振り返ると、マルコの後に続いて梯子に足をかけてからそっと蓋を閉めた。

 中は真っ暗だった。地面に下り立った二人は、すぐさまスマホのライトを点けた。
 そこはコンクリート造りの四角い空間だった。奥には、さらに下へ降りる梯子が掛けられている。

 スマホを口にくわえ、ふたりはその梯子も下りて行った。すると、その後を追いかけるホロロムルスの視点が突然真っ暗になった。

『接続が途絶えたようですね』と、ホロロムルスを操作していたマーティスが首を傾げた。
『地下だから通じない、なんてことは・・・』と紗奈が言いかけると、当然そんなことはないというようにマーティスは首を振った。

『通じないものは仕方ない。行ってみるしかないね』
 ハーディはそう言って、クリスに向かってうなずいた。

 当初の予定では、ダニエーレがアジトに行って紗奈から奪った物があることと他に仲間がいないかなど状況を確認した後に、ハーディとクリスが乗り込む作戦だった。
 そして魔法を駆使して盗品を奪い返し、ボスやマルコを拘束する。そして更にふたりの目の前でダニエーレを拉致して、その後行方不明になってしまったことにする。それがハーディの考えた筋書きだった。

 作戦とは違って現場の状況が分からないという点はある。しかし、いずれにしても乗り込むことには変わりなかった。
 クリスはハーディにうなずき返した。

 それから、クリスとハーディは車中でピューネスに着替えた。そしてピューネスを着せたベベを連れて、ふたりアパートに向かった。


第27話 見覚えのある風景

お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!